俺の名はきなこ。
なんと、WIXOSS第3回の世界王者だ!
優勝したあの日、世界の全人類が俺に敬意を表していた。
「ワレコソハセカイノチョウテンニタツベキソンザイ」
俺のような上流階級が、地味に働いて小金を稼ぐなんて恥ずかしい。
信者から金を集め、信者に教えを授け、世界の真理を探究する活動に専念する。
そんな高尚な存在であらねばならないのだ。
だが現実問題として、日々の生活は苦しい。
世界に1枚しかないメタルプレートのメルも手放してしまった。
世界王者の称号も、日が経つと人々の注目が薄らいでしまう。
「金と名誉を同時に回復する手段はないか?」
そう考えていた折、ネット上でとある噂話を目にした。
「6月末日、東京湾沿いの豪華客船にて、一夜限りの非合法のギャンブルパーティーが開かれるらしい」
勝負の世界で這い上がった人間ならば、ただその道を邁進してゆくのみ。
俺は迷わず参加を決めた。
6月末日 都内某所
指定された場所へ向かうと、そこには金持ちが世界一周に使いそうな豪華客船の姿が。俺もいずれは世界征服の船出に旅立つ身であるが、今は停泊する船の中でのギャンブルで我慢しておこう。
軍資金は50万。メルの化身を召喚し、この勝負に全てを注ぐ。敢えて元手を少なくし、周囲の油断を誘う作戦だ。
しかし、どんなギャンブルが行われるのだろうか?
カードゲーマーとしては、駆け引きの要素が強いゲームが望ましい。勿論、トップドローの運勝負も歓迎だ。
ここは王道のポーカーか・・・?
黒服の男が壇上に立った。
「本日のギャンブルは、これだ!!!」
前方のスクリーンに、「冷奴掬い」の4文字が浮かび、ルールブックが手渡された。
ルールは簡単。1対1で対決するゲームで、巨大な桶の中から相手が一定量の冷奴を掬い、こちらが掬った冷奴を見てその質量を答えるというゲームだ。
相手は3つの異なる密度を持つ豆腐から1つを選択でき、また掬った後の盛り方も自由に選べる。ぐちゃぐちゃに崩して少なく見せるという作戦もあれば、大きく盛って重く見せつつ、実は密度の小さい豆腐を選んだため質量は小さいという作戦も考えられる。
「Aが冷奴を掬い、Bが質量を答える。その後Bが冷奴を掬い、Aが質量を答える」
これを1セットとして、合計3セットが行われる。その後、答えた値と実際の質量の誤差を集計し、答えた誤差が小さい方が勝利となる。
例えば、Aは1回目30グラム、2回目20グラム、3回目15グラムの誤差で答えたならば合計65グラム。Bは1回目40グラム、2回目10グラム、3回目5グラムの誤差で答えたならば合計55グラムで、誤差の小さいBの勝利となる。
最後に、両者の誤差の差×10万円を相手に支払い、ゲーム終了となる。
上記の例であれば、AはBに(65-55)×10=100万円を支払うこととなる。
ルールは理解できた。学の高い俺ならば分かる。「内臓を1ポンド正確に切り取ることができるか?」というヴェニスの商人のラストシーンをもじったゲームということが。あらゆるゲームに、必勝法はある。俺が負けるはずが無い。ただ1つ、頭の片隅に抱いた疑問があった。
「冷奴ってなんて読むんだろ?れい・・・や・・・つ・・・?」
(完)