また異界駅をここに乗せておこうかと。
原文をそのまま載せるわけにはいかないので、私なりに直した文章で書かせていただきます。
怖い話ですので、苦手な方はご覧になりませんように。
よろしいでしょうか。
とある男性の経験談です。
時期はお正月。この男性は、自身が通っているのでしょう、剣道教室に、電車で向かいました。鏡開きのイベントがあったのです。
子供たちの相手をしたり、餅つきをしたりと大忙しだったようです。
午後2時くらいに解散となり、男性は電車で帰途に就きます。
電車の揺れに、疲れもあって、男性はついつい眠ってしまいました。
ふと気が付くと、電車は駅に止まっていました。しかし駅の名前に見覚えがありません。学生時代からこの路線を使っているというのに、初めて見る名前なのです。
そこは、「ひつか駅」という駅でした。
周囲を見ると、そこそこいたはずの乗客は誰もいません。
男性は、これはまさか噂に聞く異界駅か、と思いました。
この方、異界駅を御存じなのです。
それなのに男性は、好奇心に駆られて下車してしまいました。
駅の中は真っ白でした。駅だけではなく、周囲のものすべてが色を持っていなかったのです。唯一の色は黒であり、それも駅名に使われた色だけでした。
周囲を見回していた男性ですが、電車が突然動き出し、男性を置いて行ってしまいました。
まさかずっと止まっていた電車が動き出すとは思わなかったのでしょう、男性はここで初めて恐怖を感じたようです。
真っ白で景色が見えない、出口も見えない、誰もいない、どうしていいかわからない。
男性は駅に降りたことを後悔しました。
そんな時、とても訛った言葉で「兄ちゃん、どうしたんだ?」と声をかけられました。
そちらを見ると、幼稚園児くらいの、少年とも少女とも知れない着物姿の子供が男性を見ていました。
人がいたという安堵感で、男性は泣きながら経緯を説明しました。
それを聞いた子供は、彼に教えてくれました。
ここは本来絶対に入ることが許されない場所であり、電車に乗って連れていかれると二度と戻ってこられなかった。降りたのは正しい選択だった。この駅は死の一歩手前で、先にはもう一つ駅がある。
何より救いだったのは、子供は男性の味方だと言ってくれたことでした。
子供はまた訛った言葉で言います。
「兄ちゃんはまだ運が残っているから、それで帰してあげる。でも次はない。私の力では一回が限度だ。次送られたら、烏……(聞き取れず)様に頼りなさい。あと、それをもらうよ」
気が付くと、男性は動く電車の中にいました。電車は、男性の降りる駅の2、3駅手前を走っています。
男性は、元の世界に帰ってくることができたのです。
男性は先ほどまでのことは夢ではないと確信しています。
なぜなら、彼の被っていたニット帽がなくなっていたのですから。
異界駅に流れ着いた時、電車から降りてはいけない、と言われる場合もありますが、降りなければならないこともあります。ほぼ半分くらいの確立でしょうか。
帰ってこられるか、異界に取り残されるかは、運次第なのでしょう。子供は運を使っていないからと、それを使って助けてくれました。
子供は神様だったのでしょうか。
男性は子供に出会えたから助かりました。
もし出会えていなかったら……。そう思うと、とても怖いですね。