寒い・・・
宇都宮市民には申し訳無いが、関東とは言え東北を彷彿させる北風が、物凄く身に染みる・・・
完全に宇都宮を舐めてた俺は、着ていた革のジャケット上にユニクロのダウンジャケットを買うべく街へ繰り出した。
あれ・・・
ユニクロ無くね!?
駅周辺を探してみたが、普通にデパートはあるのにユニクロが見当たらない!
マジか・・・
俺は止むを得ず、近場のショップにあるマフラーと手袋を買い、それで凌ぐことにした・・・
そして、待ち合わせの時間に手塚と名乗る初老の女性と落ち合った。
「遠い所申し訳ございません。」
「い、いえいえ」
寒くて、うまく喋れない・・・
駅から車で30分ぐらい走っただろうか?これ以上北へ向かいたく無いのに、さらに北へ行くことになった。
あたりは、ストレートに北風を受ける田園。その中でも1軒だけかつては豪農だったのであろう、大きな日本家屋に案内された。
藁ぶき屋根かよ・・・
乗って来た車も、農家には不釣り合いな高級車だった。
「何もございませんが・・・」
そう言って手塚さんは俺を居間へ案内した。
大きい仏壇。大きいテレビ。20畳はありそうな居間。代々続くお家柄なんだろう。
金持ちの様子がうかがえる。きっと、教団も財産目当てかなんかだろうな・・・
待つこと数分、手塚さんが色んな写真を持って現れた。
別に写真なんかいらないんだけど・・・
「これが、息子の浩二です。」
「あ、拝見します。」
見た所、すごく普通。小さい頃から最近までの写真をざっと見たが、決して擦れている感じは無い。
成績も優秀だったそうで、大学は地元の国立大学の農学部に在籍していて、成績も優秀だったそうだ。
こりゃ『頭が良い方』だな・・・俺はちょっとだけ不安になった。
「で、その教団に入ったのはいつから?」
「気づいたのは先月です。1年前から専業で農家を継がせていたのですが・・・」
「が?」
「ああ、どうもここ最近、金遣いが荒いと言うか、家の物を色々と処分しているようで・・・」
「家の物?具体的には・・・?」
「お恥ずかしながら、当家は代々農業を営んでおりまして、つい最近一部の農地が宅地に転用されることになったんですが」
「ほぅ」
「父親がおりませんので、浩二に任せていたのですが、そのお金を教団に寄付していたようで・・・」
「全額!?」
「ええ。ですので、農協さんにも説明出来ませんし、近所の目もありますので・・・」
「早急に解決したい・・・と?」
「その通りです。」
「手塚さん・・・まず、この仕事はお引き受けします。ですが、短期間では決着着けられないと思います。」
「そうですか・・・」
安堵と不安の表情が混じり、苦虫を潰したような顔になっていた。
「どうしますか?それでもよろしいですか?」
「はい・・・お願いします。」
「分かりました。では、手塚さんは私のことを伏せておいてください。」
「え?どういう事ですか?」
「そもそも母親が反対しているのに、私を紹介しにくいでしょう。ですので、私が個人的に浩二さんに近づきます。もちろん偶然ね。」
「はぁ・・・」
「ですので、浩二さんがよく行く場所や何かあれば連絡ください。それ以外は、個人的に進めます。」
「分かりました」
不安を隠せない手塚さんを置いて、俺は宇都宮の駅に戻り、洋介に連絡をした。
「はい。佐竹です。」
「あ、俺。今から宇都宮集合。」
「やっぱやるんすか?」
「うん。ちゃんと報酬払うから。」
「危なく無いんすか?」
「多分、危ないと思うから、それなりに覚悟してきて(笑)」
「うわ。出た。嫌だって言ったら?」
「あのことバラす(笑)」
「行きますよー行けば良いんでしょ・・・車は?」
「ナンバー違うからバレるっしょ。こっちで調達する。」
「分かりましたー。夜には着きます。」
「了解。よろしく。」
さて・・・
まあ、2,3日浩二さんとやらを尾行して、どっかで捕まえるしかねーか・・・
その郷紳会ってやつの背景も調べないと、火傷しそうだなぁ・・・
俺は買ったばかりのMacを立ち上げて、軽くネットを漁っても情報は出て来ない。
「やっぱそうだよなー」
諦め半分、これからどうするかを考えるために、俺は宇都宮の街を徘徊することにした。
つづく