「ばかもん!!!!!」


会長室から怒号が鳴り響く。


怒鳴っているのは、一代で小麦商から成り上がった雄一郎で


怒鳴られている方は、その息子でこの会社の社長である幸平である。


最近良く見られる光景だと、会長の秘書であり、幸平の妻である美穂が顔をしかめている。


実は、幸平は会長の実の息子では無い。


婿入りで、笹川家にやって来た。


外資系のチャキチャキの金融マンで、当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった。


そんな時、ニューヨークで留学中の美穂と知り合い、数年間の交際期間を経て


ようやく、父親の雄一郎の承諾を得て、婿入りであるならば。と言う条件で結婚出来た。


当時は大恋愛であり、最悪勘当も覚悟していた。


だが、一人娘と言うのと、妻に先立たれた事から、雄一郎も止むを得ず認めた。と言う事だった。


そして、ここ数日、夫である社長の幸平が会長室に呼ばれる回数が増えたのと、怒号の数が増えている事が少々気がかりだった。


きっと、会社の業績の事であるとは想像がつくが、それにしては回数が多い。


今夜、帰宅した後にでも夫に聞いてみよう。美穂はそう思いながら怒号に背を向けた。




「どうですか?ビジネスになりますか?」


林は自社の会議室で、ファンドマネージャーの高木と打合せをしていた。


「資産売却のスピードによりますが、中長期的に見れば、十分ペイ出来ると思います。」


「調達の見込みは?」


「そうですね…2週間あれば十分ですかね。」


「競合の可能性は?」


「今のところはなんとも・・・所詮バルクで出て来た案件ですからね。」


「投資ゴロがいなけりゃ…ってところか。」


「ええ。」


林は内線電話を取り上げて、秘書をコールした。


「はい」


「林だ。若くてイキの良いディーラーを寄越してくれ」


「かしこまりました」


数分後、背の高い細身の女性が姿を現した。


「佐伯でございます。ご用でしょうか?」


「佐伯君か…入社して何年になる?」


「今年で6年目になります。」


「今、担当している案件は?」


「今週末でフィックス出来ます。」


「よし、来週から俺とコンビだ。そこにいるのは、BBCの高木君だ。FAを担当してもらう。」


高木は佐伯と目が合うと、立ち上がり握手を求めてきた。


「高木です。よろしくお願い致します。君のような素敵な女性と仕事が出来て光栄です。」


「佐伯です。若輩者ですが、どうぞよろしくお願い致します。」


「よし、今日はキックオフパーティをやろう。佐伯君手配を頼む。」


「承知致しました。」






「と、言う事なんですよ…」


兵頭は田中と言う胡散臭い男と場末のスナックで飲み交わしていた。


「情報源は信頼出来るのか?」


「ええ、そりゃもう…」


兵頭はエタノールのような臭いがする酒らしいものを喉に入れた。


焼けるように熱い…


酔っているとは言え、判断力が鈍っているわけでは無い。


この田中と言う男の情報には信憑性がある。


だが、情報源がなんとも怪しい。


このスナックの常連と言う事で、たまに見かける事はあったが、田中の事は何一つ知らない。


田中が仕入れた情報をツマミに、ママと話している所に、偶然兵頭がやってきて


紹介されたと言う具合だ。


仕込みにしては、随分手が込んでいる。


「で?情報量を俺からせしめるって腹か?」


「いやいや。もちろん情報が本物だった時だけで結構ですよ。」


「ふん・・・」


で、その会社の名前は何て言うんだ?


横浜にある、笹川商事って言う会社ですよ。