7月15日
龍一は、浅田産業との交渉を終え、帰路に着いていた。
話はうまくまとまった。
但し、浅田産業の事情はかなり悪いらしく、発注、即入金でお願いしたい。と言う事であった。
その見返りとして、キックバックを要求し、背に腹は代えられないとあっさり受諾してもらった。
つまり、竹下の取り分を差し引いて今月末にはおよそ500万円程度の実入りがある事になる。
龍一はそれだけで浮かれていた。笑わずにはいられなかった。
カナにも真っ先にメールした。もちろん、仕事が成功して臨時ボーナスが出る。と言う形にして。
カナはお金の事よりも、仕事が成功した事を喜んでくれた。それが、少し後ろめたい気持ちになったが。
それより、500万もの大金を手に出来る事で頭が一杯だった。
帰社すると、早速発注書を竹下の元に持参し、打合せ通り承認印をもらった。
浅田産業からのキックバックを受け取る、トンネル用の会社を用意する必要を竹下から問われたが
もちろん、龍一にそんな会社は無く、やむを得ず自分の口座でやりとりをする旨を伝え、もし発覚した際のリスクなど考える余地も無かった。
いずれにせよ、発注書を経理に回し、浅田産業への入金手続きも難なく終え、後は月末を待つばかりとなった・・・
秋葉に浅田産業の調査を依頼してから、そろそろ一週間が経過する。
さらに山口の兄貴の締切も残り半月を切った。
いまだ秋葉からの連絡は無い。
那智は苛ついていた。
このまま、終わるわけには行かない。何としても秋葉に手渡した手形を金に換えなければならなかった。
そんな時、秋葉から連絡が入った。
「すみません。連絡が遅れまして。」
「秋葉さーん。待ってましたよ。で?何か進展ありましたか?」
「予想以上に、マズイですね。債務超過のレベルがハンパじゃない。」
「んじゃ、流石の秋葉さんも、紙切れコースってわけですか?」
半ば諦めかけた那智は、皮肉を込めて言った言葉も、秋葉には届かないようで、淡々と続けた。
「いや、一つ良い情報は掴めました。」
「ほぅ。伺いましょう。」
「今月末に、大手の森戸食品から大口の発注があるようです。」
「ほう。それで?」
「キャッシュフローも良く無いようで、検収後入金では無く、受注後即入金と言う形で商談成立したそうです。」
「なんにもして無いのに、先に金もらうって話か?」
「そうなりますね。で、もしそうだとするならば、今の財務状況じゃ逃げか、堕ちるのどっちかですよ。」
「計画倒産ってやつですか?」
「いや、もっと性質悪いですね。夜逃げコースです。既に夜逃屋を手配しているようですし・・・」
「んじゃ、これで俺の出番ってわけか?」
「ええ。森戸食品から、入金あった時点で何かしらの細工をしているはずです。そのタイミングを逃すと紙屑か、後は力技ですね。」
「と言うと?具体的に何をすれば?」
「2つあります」
「ひとつは・・・・」