先般も書いたように、事業承継は国家的なテーマになってます。後継者がいないため、廃業する企業が多くなり、中小企業の基盤にうえになりたっている日本の産業自体が弱体化しつつあるからです。実際に、事業承継の現場でどのようなことが起きて、何が問題になっているのかを、物語風に連載してみたいと思います。それでは、第1話をどうぞ。
第1話 なぜだ!!!
日本製造株式会社は、日本太郎が40年前に創業した会社です。日本の高度成長とともに大きくなり、売上高40億円、経常利益3億円をあげる優良企業でした。社長の日本太郎には、長男、次男、長女がいました。長男一郎は次期社長含みで、副社長をしていました。次男の次郎は、営業を担当する常務(後の専務)、長女の夫大阪和男は、製造を担当する取締役(のちの常務)として、働いていました。
社長の太郎はある時、医師から癌を告知され自分の死期が近いことを悟りました。太郎は、長男一郎を社長に指名し、顧客、仕入先を招待して社長就任披露パーティーを開催し、その1年後に安心したかのように永久の眠りにつきました。
太郎が亡くなってしばらくして、定時株主総会が開催されました。この年は、ちょうと役員改選の年でした(現行会社法では、取締役の任期は1年でも可。監査役の任期は最低4年)。 社長の一郎は、弟次郎の最近の動向が気になっていました。少し前から、いろいろな社員を集めて、夜な夜な会合をしているようでした。ひょっとしたら、自分をさしおいて社長になろうとしているのではないか? との疑いを持ち始めました。そこで、自分のシンパの取締役を集め、主だった従業員には、株主総会で社長派の役員改選に賛成するよう、いい含めておきました。
いよいよ株主総会の日がきました。同社の発行済株式総数は20万株。株主構成は以下のとおりです。
日本一郎(代表取締役) 8万株(40%)
日本次郎(専務取締役) 6万株(30%)
大阪和男(常務取締役) 3万株(15%)
従業員・その他 3万株(15%)
定時株主総会で、議長の日本一郎が、取締役の任期満了につき、従前と同様の取締役の就任が就任する議案の賛否を諮ったところ、その取締役案には反対であるとのべ、別の取締役案が提案されました。その案には、社長である日本一郎は取締役候補に入っていません。そこで、一郎案と次郎案の2つのどちらにするかを、総会で諮ることにしました。結論は、
一郎案賛成 99,500株
次郎案賛成 100,500株
なんと、1000票差で、一郎案は否決され、次郎案で決まってしまいました。次郎案には、一郎とそのシンパの取締役は、新取締役名簿には入っていません。総会に引き続き、取締役会が開催され、次期社長として、次郎が選任されました。
一郎は、次郎から、その日のうちに社長室を明け渡すこと、代表者印その他社長として必要な重要物を渡すよう、申し渡されました。 一郎は追い立てられるように社長室を後にしました。一郎は、車を運転して会社を見下ろすことができる丘までやってきました。心臓はドキドキ、怒りがこみ上げ、しばらく涙が止まりませんでした。
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どうすればよかったのか、検証してみましょう。
先代社長の過ち
一郎を次期社長に指名したのに、一郎が過半数の株式を取得できるような状態にしておかなかった。
対策1 後継者の支配権を確保すること。
対策2
具体的には 発行済議決権株式の3分の2以上を所有していれば、単独で特別決議ができます。資本取引(事業譲渡、合併、分割等)や定款変更を単独で決定できます。今日のように変化の激しい時代に、組織再編を迅速に決定できる上代であることが大切です。
3分の2の確保が困難な場合でも、過半数の株式を確保することが重要です。
過半数を確保していれば、上記のような定款変更や組織再編が単独で決定できなくても、役員先任権を確保することが可能です。役員選任権を確保しておけば、自分が代表取締役に就任することが可能です。
対策3
過半数の株式を後継者に確保するには。
公正証書遺言を書いておくこと。
会社を残す立ち場にある被相続人たる経営者(この場合は太郎)は、事業承継相続人たる後継者(この場合は一郎)に自己の所有する株式の全株(もしくは、少なくとも一郎の持株比率が3分の2以上、それが難しい場合でも過半数に達するように)を相続させる旨の公正証書遺言をつくっておくことが必須になります。
対策4 従業員持株会をつくっておく。
対策5 黄金株1株を発行し、後継者に与えておく。(黄金株:拒否権付種類株式ともいわれています。黄金株とは、株主総会や取締役会での決議事項のうち、当該決議の他、種類株主総会の決議も必要とする内容の株式のこと)
対策6 相続によって取得した株式を、会社が買い取ることを請求できるように、定款変更をしておく(ただし、この規定は 諸刃の剣 になる可能性もあり)。
「黄金株」と「相続によって取得した株式の買取請求権」については、次回以降に解説します。
第1話 おわり