劇団バナナのブログ -4ページ目

劇団バナナのブログ

ブログの説明を入力します。

それはさしずめ自分の場所のような顔をして
誰に頼まれたわけでもないのにそこにいる。
ある日突然渡された引導を
どうすることもできずにただぶら下げているだけのその男は
しかめっ面をしたまま新聞に目を落とす。
その新聞に記された日付はすでに十年以上も前のもので
彼の時計はそこで止まっていた。
その日いったい何があったのか誰も知らない。
誰も聞こうともしないし彼もまたしゃべろうとはしない。
まるで観覧車かメリーゴーランドでもあるかのように
彼はただ回るだけで一歩も前に進めてやしない。

あの日。
大事な人を失ったのか、大切なものを無くしたのか。
はたまたそんなもの初めからなかったのか。
そんなことはもはやどうでもいい。
必要なのはなにかをはじめるきっかけではなくて
「はじめない」ための理由だった。
心が完全に凍り付いてしまう程には
彼もまた器用ではなかったし
どこぞの野良猫をいたわる程度には
優しさや余裕を持ち合わせていた。
そしてそれがまずかった。

手札に残ったスペードのエースを
可能性を信じて切る事が出来ずにいる。
はなから山札には一枚も絵札なんか残ってやしないと知りながら
それでもその一枚にかけ続けているのだ。
人生をすり減らすレイズ。
終わりを告げるコール。
プレイヤーは彼ただ一人のゲームが
そこではいつまでも続いているのだ。


まるで舵を失った小舟の様に
おおよそそれは何処にもたどり着けないでいる。
たとえ遠くに島が見えたとしても
そこに身を運ぶ手段を持ち合わせていない。
仮に船を捨てて泳いだのだとしても
その島が安全なんて保証は何処にも無いのだ。
始まる事がなければ終わる事も無い事を
彼女は知っているから船に残る。
しかし船に乗った時点で全てが始まっていたという事に
彼女はまだ気づいてさえいないのだ。

漂流生活が始まってから
どれだけの月日が過ぎたのかを彼女は知らない。
太陽が三回のぼって沈んだのを確認してから
彼女はそれを数えるのを放棄した。
船に積んだ食料はあと残りわずか。
あの日以来、島はおろか小さな板きれすらも見当たらない。
はじまってすらいないと思っていた物語は
もはやエンドロールの手前まできていたのだ。
はじまりすら望んでいなかったのに、ましてや終わりなんて。

手札に残った最期のジョーカーを
その意味を知らずに彼女は捨ててしまうのだろう。
数字もアルファベットも刻まれていないそのカードには
不気味に笑うピエロの姿が。
人生をすり減らすレイズ。
終わりを告げるコール。
プレイヤーは彼女ただ一人のゲームが
そこではいつまでも続いているのだ。


もしも彼と彼女が出会う事があれば
いずれは決着を迎える時が来るのだろう。
勝つにしても負けるにしても
とにかく次のステージへ進む事ができるじゃないか。
エンドロール寸前で出会うはずのない二人が出会う様な
奇跡的な物語は実際には無いかもしれない。
しかしもう物語はとうにはじまっているのだ。
そしてまだエンドロールは流れていない。
なにせはじまった事にすら気づかないような話だ。
まだエンドロールは流れてやしない。

まだエンドロールは流れてやしない。