「こんにちは」

 その人物は日曜日の昼過ぎにインターホンを鳴らすと、こうあいさつして純の家で玄関のドアを開ける。

「裕司君。久しぶりだね」

 純は玄関まで出迎えて、笑顔で答える。

 この人物、本山裕司は純の従兄弟である。現在18歳の彼はこの春に今純の通っている大田東高校を卒業し、ただ今地元大田大学の一年生である。髪の毛は高校時代、色は黒で短髪だったはずなのだが、大学に入ってからはすっかり髪の色も茶色に変わり、ずいぶん長くもなっている。純とは三月末以来の再会になる。

「よう。久々に来たぞ」

 180センチくらいの身長でTシャツにジーパンという極めてラフな格好をした裕司は、そう言って純に笑顔を返すと、階段を上がって二階にある純の部屋に向かうのだった。

 

 その日、純はある人物と会うために家にいた。

 今日は日曜日。不条理倶楽部の入部申込書を受け取った日から二日が経った。

 昨日の土曜日の休みはテレビゲームをしたり、インターネットのサイトをのぞいてみたり、音楽を聴いたり、テレビを見たり、と結局普段の休日と変わらぬまったりとした過ごし方をした。

 もちろん、こういった休日にはたまには、仁や、中学校時代の友達や、クラスメイトと買い物、ボウリング、カラオケ、ゲームセンター、映画館等に出かけることもある。

 だがそういった付き合いに面倒さを感じることも多い純は、休日は一人で過ごすこともかなり多い。

 また、一時期はこういう暇なときに、仁と携帯電話でのメールを頻繁にしていた時期もあった。しかし、これも仁と互いに面倒臭くなってしまい、結局やめてしまった。

 休日は確かに自分のやりたいことができるが、今一つ刺激のない日。純にとっての休日とは、これまでそのようなものであった。

 だが、この日曜日に純の家を訪れる人物はこれまでの何となく退屈な日々を、一変させようとする人物の一人であったのだ。

 

 


「ドーン!…ガラガラ…」

 いきなりの轟音にベッドで制服を着たままウトウトしていた純は驚いて飛び起きる。部屋の中にはザアザア、という激しく雨が家に打ちつける音が響いている。

 純がカーテンを開けて外を見ると、仁といっしょに帰っていたときはまだ雲の間から青い部分ものぞいていた空が、どんよりと曇った濃く青い闇に変わっている。

「ピカピカ…、ドーン!」

 光とともに、窓から見える暗闇に住宅街のシルエットが映し出される。そのあとしばらくしてから、さっきを上回る爆音が部屋の中にも響き渡る。

(これからどうなるのだろうか……)

 純は自分が受けるかもしれない試験を、今の天気と重ね合わせながら、窓から外を見つめていた。

『入部試験申し込みにあたっての誓約書


 不条理倶楽部入部試験を受けるにあたって、以下のことを誓約する。


1、試験の中でどんなことが起こっても、裁判所、PTA等の外部の人間、機関に訴えるようなことはしない。

2、試験の内容を外部の組織、人間には一切口外しない。

3、試験はこちらに落とされる以外の理由では、絶対に途中でやめてはならない。               』


 こう書かれたあと、紙には名前を署名する所とサインをする所がある。

(……)

 純には全く理解することができない。

 なぜ、試験の中でどんなことが起こっても訴えるな、などということを、わざわざ誓約書で誓わせようとするのか?

 なぜ、試験の内容を外部に一切話してはならないのか?

 この部では、外部にばれては困るような、何かとんでもないことをやっている、とでも言うのか?

 しかも、試験は部の側に落とされる以外には、やめることができないとはどういうことなのか?

 (それに……)

 稲田は仁がいくら聞いても、部の活動や試験のことについて、何も話そうとしなかったという。

 このことも、試験の内容を秘密にしようとすることと、何か関係があるということなのだろうか?

(本当にわからないことだらけだよな、この不条理倶楽部という部は……)

 そう思いながら、純は誓約書の封筒の中に戻して机の上に置くと、ベッドの上に再び寝転び、あお向けのまま天井を見つめるのだった。

 

 


「ふうー……」

 自分の家に着き、玄関から階段を上がって、二階にある自分の部屋に入ると、純はベッドの上に背中から倒れこむように身体を落として、一息つく。

 純は一人っ子である。両親は共働きだが、父親は単身赴任しているために、普段は家にはいない。母親も家にはいるものの、帰ってくるのは夜遅くである。そのために、純は学校から帰ってくると、一人で自分の部屋にいることが多かった。

 そうして、今日も一人でベッドにあお向けに寝転びながら、不条理倶楽部のことについて考え始める。

 それにしても、不条理倶楽部というのはやはり得体の知れない部である。部活動を始める前に、一ヶ月もかけて入部を許可するかどうかの試験を行うなど、全く聞いたことのない話である。一体何をするかなど想像だにできない。

 とはいえ、一方で純は不条理倶楽部に対する興味が次第に強くなってきつつあることも感じている。

 仁は、不条理倶楽部に入った稲田は入る前よりも自信をつけたようだ、と言っていた。

 自分は稲田とは同じクラスにいるとはいえ、あまり親しいわけではないのでその変化については全く分からない。

 だが、もし仁の言っていることが正しいのだとすれば、一体この部では何が行われているというのだろうか?

(そういえば!)

 純は急いでベッドの上から下りて、今日不条理倶楽部の部室で亜裕子からもらった、試験の申込書の入った封筒を、自分の学校指定の青い手さげカバンの中から取り出し、封筒の中身である紙を見るのだった。

 しばらくして沈黙に耐えられなくなったのか、仁がいつもの明るい調子に戻って口を開く。

「とにかくだ!全ては不条理倶楽部の様子を見てからだな。毎日超美人の井倉亜裕子副部長の顔を見れるってだけでさあ、参加してみる価値は十二分にあるってもんだろう!」

「ったく、結局お前はそういう方向に行くのかよ!」

 純は完全にあきれ返って言う。

「いいじゃないかよ。大体何でもお前は神妙にとらえすぎなんだ。部活動ってのはなあ、普段の学校生活を楽しくするためにするものなんだよ。そんなにかたくならずに気軽に始めてみて、やめたくなったらすぐにでもやめりゃあいいんだよ!」

「俺はお前みたいにそんなに適当には生きられないんだよ」

「じゃ、これから気楽な生き方ってやつを俺といっしょに不条理倶楽部で学べばいいじゃないか!」

 本当に気楽な生き方をこの倶楽部で学べるのかよ、というツッコミを入れようとしたところで、ちょうどいつも二人が分かれて帰るコンクリート塀に囲まれた住宅街の十字路に通りかかる。

「じゃあな!必ずいっしょに倶楽部に入るんだぞ!」

 そのことを最後に強調したあと、仁は純の方に向けて人差し指だけ立てたまま、手を水平に上げて指差し、笑顔を浮かべながら、純とは違う道へと歩いて行くのだった。


 読者の皆様!(非常に少ないことは自覚していますが)

 また怠け癖が出てしまいました!

 なんとこれが今年に入って初めての更新!(間空きすぎ!)

 これというのもひとえに己の未熟さゆえの所業ゆえお許しを!

 平伏してお詫びいたしますぅ!

 実はこの間『ティアリング・サーガ』というゲーム(PS1の2001年のゲーム、古るー!)に夢中になっていました。

 三日前ようやくクリアできたためこうしてただいま更新している次第です。

 自分でも自分の持続力のなさ、飽きっぽさにあきれ返っております。

 あまりにもゲームが面白くて、夢中になりすぎて…。(完全なる言い訳)

 ですので、これからは可能な限りひんぱんに更新していきたいと思いますので相当暇な方はなにとぞ長い目で楽しんでやってくださいまし。

 ではこれにて失礼。


 P.S 先日応募した『電撃hp短編小説賞』一時選考に落選した模様!これも日ごろの生活態度の悪さの報いか?負けるもんかー!歯食いしばって頑張るぞー!

「なあ、不条理倶楽部のこと、どこで聞いたんだ?」

 純と仁がそれぞれの自分の家に帰るために、いっしょに学校の校門を出たあと、二人の帰り道の途中、ふと純が仁に尋ねる。

「同じクラスの稲田誠司だよ。お前も知ってるだろう?」

「稲田……」

 稲田誠司。同じクラスなので毎日見かけることはあるのだが、話をしたことはほとんどない。メガネをかけた、いかにも真面目そうなヤツである。

「俺、この高校に入学してからずっとアイツの隣の席だろう?だからアイツとよく話すことがあるんだけど、アイツは不条理倶楽部の部員なんだよ」

「本当に?」

「ああ。不条理倶楽部の存在自体のことや、入部する前に試験があることにしても全部アイツから聞いたんだ。けど、肝心の試験や部の活動のことを聞いても、それは部の秘密だ、って言って何も教えてくれないんだよなあ」

「秘密だって?」

「そ。俺も何度も聞いてみたんだけど、何度聞いてもダメだったんだよなあ」

「ふうん……」

 それから、仁が普段よりもいくらか神妙な面持ちで話し出す。

「でも稲田のヤツ、入学して一週間ぐらいしてから不条理倶楽部に入ったらしいんだけど、入学した直後と比べるとなんだか様子が変わったような気がするんだよなあ」

「様子が変わった?」

「ああ、確かに、最初に俺の隣の席になったときから、あまり自分からしゃべるようなタイプじゃなかったし、それは今でも変わってないんだけど…、何というか…、話し始めてから一ヶ月くらいの間で自信をつけたというか…、そんな気がするんだ」

 仁にしては珍しく、はっきりしない調子で話す。

「自信をつけたって…、どういうことだよ?」

「うまくは言えないんだけどさあ…、とにかくそんな感じになったんだよ、アイツは……」

「……」

 いくらかの間沈黙が続くのだった。

 純は声のする方を見る。すると、そこには大田東の制服を着た男性と女性が一人ずつ立っている。

「あなたたち、入部希望者かしら?」

 女性の方が二人に話しかける。大人びた感じのする、テレビドラマに出てきてもおかしくないような美人で髪は長い。身長も165センチくらいはありそうである。

「ハイッ、そうでっす!」

 仁が元気よく答える。

「僕は不条理倶楽部部長の有川崇史だ」

 今度は男性の方が二人に自己紹介する。線は細いがこちらも背は非常に高い。180センチくらいはありそうである。

「同じく、不条理倶楽部副部長の井倉亜裕子よ」

 続いて女性の方も自己紹介する。

「せっかくここまで来てもらって悪いんだけど、僕達の部では何人かの入部希望者を集めたあと、一ヶ月をかけて入部を認めるかどうかを決める試験をすることになっているんだ」

 部長の有川が冷静で、そして柔和な感じで二人に説明する。

「試験…、ですか?」

 純は思わず答える。

「そう、試験だ。そのために、君達には来週の月曜日に改めてここに来て欲しいんだ」

「これ、その試験を受けるための申込書なんだけど、あなた達持ってる?」

 亜裕子が封筒を右手に持って、二人に見せながら尋ねる。

「いえ…、持ってないです」

 純が質問に答える。

「じゃあ、あなた達に渡しておくから、来週の月曜日までに書いて持って来てちょうだい」

 そう言って、亜裕子は二人に一つずつ封筒を手渡す。

「今はいないんだけど、僕達以外にも部員が何人かいるし、顧問の先生もちゃんといるんだ。今日二人しかいないのは、試験について二人で打ち合わせをしているだけだからなんだよね」

 有川が言う。

「でも、他の人達も明後日には来るんだけどねえ」

 亜裕子がフフフッ、と少しだけ上品な笑顔を浮かべながら、続けて言う。その微笑に純は思わずドキッとする。

「まあ、とにかく来週の月曜日に来てくれよ。楽しみに待っているからさ」

 最後にそう締めくくると、有川と亜裕子ニッコリと笑う。

 そして、最後のこの有川の言葉を聞いたあと、二人は教室を出るのだった。

(しかし、不条理倶楽部ってどんなことをしているとこなんだろう?)

 純はその日の授業中ボーっとしながらそんなことを考えていた。

 確かに最初仁に入るように言われたときは驚いて断ろうか、とも思った。

 しかし、今現在自分には特に何かやりたいことがあるわけでもない。しかも、今一つ自分の普段の生活に物足りなさ、中途半端感を感じている。

 ならばこの不条理倶楽部という部をのぞいてみるのもいいのではないか?

 純はそう考え始めていた。


(ここか……)

 その日の放課後、純は仁に半分強引に引きづられて不条理倶楽部の部室があるという教室の、ドアの前にいた。

「部室の前に不審な点は見当たらないようですなあ」

 仁がオヤジのような物言いで言う。

「…とりあえず入るしかない…、か」

 そう言うと、純がゆっくりとドアに手をかける。

 純と仁はガラガラと音のするドアを開けて、教室の中に入る。

「ん、入部希望者か?」

部屋に入ると、どうも高校生のものらしい男の声がするのだった。