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「タクシー運転手 約束は海を越えて」を観ました。



1980年5月、民主化を求める大規模な学生・民衆デモが起こり、光州では市民を暴徒とみなした軍が厳戒態勢を敷いていた。
「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」というドイツ人記者ピーターを乗せ、光州を目指すことになったソウルのタクシー運転手マンソプは、約束のタクシー代を受け取りたい一心で機転を利かせて検問を切り抜け、時間ギリギリにピーターを光州まで送り届けることに成功する。
留守番をさせている11歳の娘が気になるため、危険な光州から早く立ち去りたいマンソプだったが、ピーターはデモに参加している大学生のジェシクや、現地のタクシー運転手ファンらの助けを借り、取材を続けていく。
(映画.comより引用)






映画を観る上で、「良い映画」と「好きな映画」って別個として考えてるんですね。これは良い映画だ、でも好みではない。これは好きな映画だ、でも良い映画だと言えるかどうかは分からない、みたいな。


好きな映画はSFやヒーローものですけど、脚本が必ずしも良いかと言われればそんな事もないわけで。
良い映画っていうのは好み関係なく、作品の完成度が高い、アカデミー審査員が選びそうな映画って感じです。





この「タクシー運転手 約束は海を越えて」は「良い映画」としても「好きな映画」としても、文句なしの今年ベスト級です。






以前も書いたかもしれませんが、実話ベースの映画って、分かりやすく史実を取り入れられると思うので、積極的に観ていきたいジャンルだし好きなんです。
ただ、実話ベースだと事実に基づいて作られるので、どうしても映画的面白さで言うと、映画のために作られた完全フィクションに比べると劣ってしまう感が否めなかったのですね。





今作は、映画的面白さもきちんと作られています。というか、韓国映画って実話に基づいて作られててもちゃんと面白い作品多くないですか…?まだそんなに数観たわけではないですが、韓国映画のクオリティ高くて好きです。
コミカルさが豊富で観やすいけど、シリアスなところはしっかりシリアスに引き締めてくれています。



まあカーチェイスシーンとかは多分盛ってますし、2回もソウルから光州に行けるの都合良いなとかは思いましたけど…。




韓国の近代史に大きな爪痕を残した光州事件。
軍事独裁政権の真相を知るべく記者として乗り込んだユルゲンヒンツペーター氏がピーターのモデルです。
そして報酬として10万ウォン貰えるという理由でピーターを乗せて往復タクシー運転したキムサボク氏も実在の人物です。
キムサボク氏は英語が堪能だったそうですが、今作の主人公マンソプは英語はそんなには話せません。






光州事件(こうしゅうじけん)は、1980518日から27日にかけて大韓民国(韓国)の全羅南道の道庁所在地であった光州市(現:光州広域市)を中心として起きた民衆の蜂起。517日の全斗煥らのクーデターと金大中らの逮捕を契機に、518日にクーデタに抗議する学生デモが起きたが、戒厳軍の暴行が激しかったことに怒った市民も参加した。デモ参加者は約20万人にまで増え、木浦をはじめ全羅南道一帯に拡がり、市民軍は武器庫を襲うと銃撃戦の末に全羅南道道庁を占領したが、527日に大韓民国政府によって鎮圧された。
(Wikipediaより引用)









1980年

日本に滞在するドイツ人記者ピーターは、記者仲間の情報から出た韓国の光州の話に興味を抱きます。当時光州で起こっていたことは報道規制がかかっていて、海外はおろか国民すら知ることができなかったのです。ピーターは韓国の金浦空港で、記者であることを隠し、宣教師と偽り入国しました。


ソウルに住むマンソプは、妻を亡くして娘と2人でタクシーの運転手として働きながら暮らしていますが生活がカツカツ。家賃も滞納しています。それでも娘の事は大好きで仲良し。
そんなある日、ランチを食べていると、外国人が10万ウォンで光州まで行って帰ってくるようタクシーに運転を頼んだという噂を耳にし、
頼んだタクシーよりも早く急いで到着し、強引なまでに搭乗させます。


よく事情を知らないマンソプは光州に行って帰ってくるくらい容易いと思っていたのですが、あらゆる道が兵隊に封鎖されていてろくに通れない。何とかでまかせを言って検問を突破します。


光州は閑散としていて、住民たちは大怪我をしている。異様な空気にマンソプは早くソウルに帰ろうと言いますが、ピーターは取材のために来たのですから当然聞く耳を持ちません。
英語を話せる大学生のジェシク、優しいファン運転手たちの助けを借り、光州事件の激化していく様子を撮影し続けます。


国民たちが何もしていなくとも兵が暴力、しまいには銃殺と、とんでもない惨劇が広がっていて、ピーターやジェシクは助けなければと現場に身を乗り出すのですが、危ないと言ってマンソプは制止しようとします。それでも彼らは迷いなく惨状に飛び出していくのです。
マンソプは身の危険さ、娘が気がかりである事で、お金を受け取らなくても良いからと帰ろうとします。









マンソプは映画の主人公としてはかっこよくないのです。ドケチで自己中でいい加減で調子が良く周りからも少し疎まれている。それでも光州の惨劇を実際に目の当たりにして、彼の奥底にある人情や強さがまみえてくるその過程がわざとらしくなくてとても良い。
それくらい光州事件の様子を残虐に描いていて、少しトラウマにもなりかねないくらい怖いです。



大学生ジェシクやファン運転手など光州の登場人物たちが強くて優しくて勇気をもらえます。
一市民だけでは無力のようにも感じられるのに、彼らのように目の前に起こっている出来事を自分事として考えて向き合う事が、社会を変える上で必要なことなのではないかと思うのです。



英語あまり話せないマンソプと韓国語話せないピーターのやりとりが見ていて楽しいです。






マンソプを演じた主演のソン・ガンホは、韓国を代表する実力派俳優ですが、自身が歴史的事実を表現するのにふさわしい人物であるのかというプレッシャーで一度はオファーを断ったようです。
光州事件が起こった時ソン・ガンホは中学二年生。当時の報道は規制されていました。「映画が持つ情熱を観客と共有したいという切実な願いが募っていった」とオファーを引き受けました。
「この映画を通じて何を伝えたいかという部分について考え、希望の持てる前向きな映画を作ろうと努力した」という彼の作品への思いは実現されたのではないかと思います。





今作の評価出来る点の一つ、なんと言っても終わり方が完璧なんです。それがまた実話だから。
実話特有の切ないエンドロールではある。
でもこれを観て決定的に大好きな映画になりました。





韓国の国民性としては
自国に対するプライド、情熱が強く
また自国について世界に伝えたい気持ちも強いです。
そういった背景を鑑みても、こういう強い映画が作られる事に納得がいきますね。