わが子が不登校になる。
そんなこと、正直言って考えたこともありませんでした。

Kが仲良くしていた男の子が中学1年の時から
不登校になっていました。
その時も私は『家から無理矢理追い出せば良いのに・・・』と
人ごととしてそんな風に思っていました。

甘やかすから不登校やひきこもりになると言いますが、
実際そうなってみて思うのは
誰も不登校やひきこもりに好き好んでなるのでは無いということです。


好き好んでなったのでは無いにしても
わが子が学校へ行かないというのは一大事です。

私の両親は厳しい人でしたから、
世間一般に言うように
私が甘やかすから良くないと言いました。

そう責められると私も余計追い詰められます。
だから、力ずくで家から追い出そうとしたり、
叩いたり、酷い時には人には言えないような方法で脅しました。
けれどダメなんです。
Kは頑として動きませんでした。

今度は兵糧攻めです。
「学校行かないんなら、ご飯あげないよ!」
と、実際に食事を与えないことも試してみました。

でもダメなんです。
Kはご飯を食べずにジッとベッドで我慢しました。
ちょっと痩せたように思いました。
でも学校へ行こうとはしませんでした。
私は根負けし食事を与えない作戦は辞めました。

行かなくちゃいけないとは思うらしいのです。
来週からは行こう!等と約束はするのです。
でも、いざとなると行けなんです。

朝起きてシャワーを浴びて・・・
そんなところまでは準備するのですが、
服を着替え始めると途中で固まってしまいます。
椅子に座り、うなだれて前髪を引っ張り始めます。

そんなKの様子を見て
なにか精神状態が良くないんだろうなと思いました。

Kを理解したいという思いと
一日一日不登校が続く不安。
私自身が大きく揺れ動きました。
自分がどうにかなりそうでした。

学校の先生とも話をしました。
宿題が出来てなくても良いから、
保健室登校でもよいから学校へ来るようにと
先生からも話してもらいました。

けれど、Kは、宿題をしないで学校に行くと
大変悪いことが起こるというイメージを
変えることは出来ないようでした。
今まで学校へ行っていたのに、
学校へ行くということがとてもハードルの高いものになっていました。

出来ないから不真面目かというと、
出来ないけど真面目な面もあるんです。
返事をしないから不真面目かというと、
真面目に一生懸命考えても
何と言えば良いか分からないという場合もあるんです。

要領よく生きるなんていうのはKには難しいことでした。

出来ない自分が悪い。
出来る自信も無い。
しなくちゃいけないことは十分分かっている。
やって出来ないことはない。
でも、どうしても出来ない。
何故出来ないかは自分でも良く分からない。
学校へは行こうと思っている。
だから自分は不登校なんかじゃない。
自分は普通だ。でも普通の人と同じことは出来ない。

Kの気持ちはそんな感じだったように思います。

Kは書くのが苦手な子でした。
英単語も一文字ずつ元の単語を見ながら書くので、
英単語を毎日100語書くのはKには大変な作業でした。
覚えて書くというのが
どういう風にするのか多分良く掴めないんです。

漢字もしかりです。元の字を何度も見ながら書くので
半端なく時間がかかったりします。

黒板を書くとか、プリントを仕上げるとか、
Kにはそういった作業が非常に困難なようです。

けれど理解力はある方だと思います。
だから黒板を書き写すという作業が発生せず、
じっと見聞きするのであれば、さほど問題無いと思います。

ビジュアル的でイメージが湧くように伝えると
スムーズに頭に入るようでした。

Kは豆知識を良く知っていました。
社会情勢も、動物のことも、良く私に教えてくれました。
どこで知ったの?と聞くと「TVで」と言っていました。

物事を的確に捉えることもKは得意です。
だから普通の生活では実にごもっともな意見を言います。

ただ、書くという作業はKにはとても負担が大きいようでした。

ビジュアル的に伝える
そしてそれを理解するということが中心の学習なら
Kはきっと良く理解し出来るんだろうな・・・

そう思いましたが、それをしてくれるところは
その時には見つかりませんでした。

不登校日数が1ヶ月を過ぎると
不登校児としてカウントアップされるそうです。

学校カウンセラーの先生が家庭訪問に来てくださったり、
私が相談に学校へ行ったりして
何度かやりとりをするうちに
”適応指導教室”というものがあると教えていただきました。

そこへ行くと、出席扱いになるそうです。
欠席日数が多いと受験には非常に不利になります。
それもあり、適応指導教室へ行ってみるのを勧められました。

早速私はKを連れて行きました。
適応指導教室には元教頭先生とか、元校長先生とか、
OBの教員の方がおられて
不登校が続く子の勉強のサポートをしておられました。

無料で、出席扱いにもなり、少人数で学習をサポートしてくださる・・・
それはありがたい場所でした。
何故もっと早く教えてくれなかったんだろう?と思いました。

いろいろ難しいお子さんが来られていて、
全く学習に取り組もうとしない子もいるようでした。
それでも先生方は扱いになれているので
とりあえず来なさいとしか言わないようでした。

Kの今までのことをお話しすると
「君は今まで良く頑張ったね~」と先生は言われました。

「お母さん、この子は学校へ行くのがしんどかった筈です。
 逆に今まで良く頑張って学校へ行っていたと思います。
 でも限界が来たんだと思いますよ。
 お母さんは、学校へ行くのが当たり前だと思って
 今まで褒めてこなかったでしょうけど、
 彼は良く頑張って学校へ行っていたんですよ。
 でも、あまりにしんどくなって緊急避難したんです。
 自分を守る為に避難したんですよ。
 まずそれを分かってあげなくちゃいけません。
 彼には良いところがある。
 でも、このままではダメです。高校には行った方が良い。
 まずはここに来てみますか?」

私は涙がこぼれました。
Kのことを頑張ったと言ってもらうことなんて
今まで無かったからです。


Kは理科は得意です。
電気回路の組み立てなどはクラスで一番に出来たりします。
小さい頃から、粘土、ブロックと立体を作る能力には光るものがあると
思っていました。
5歳でも小学生高学年向けのプラモデルを
図の説明を見ながら一人ですぐに作りました。

そういうことは何となく分かるそうです。

今でもLANを繋いでネットの設定をしたり、
電機製品の初期設定をしたり・・・
そういうことはササッとこなします。

全てが出来ない訳じゃ無い。
それどころか、実に的を射た意見を言うし、
要するにこういうことでしょ?と解釈するのが上手いんです。

でも、学校ではいつも不真面目で落ちこぼれ。
評価は常に1か2です。

K自身、「やることやってないんだから当たり前でしょ。」
とそれには納得の様子です。
”イヤイヤ・・・分かってるのならやれば?!”
こっちはそう思っちゃいますけど。

問題は、行動なんですよね。
頭では分かっていても、意義を感じないことや
興味が示せないことになると
全く行動が伴わなくなるんです。


そんなKを本当に分かろうとしてくれる人なんて
それまでいませんでした。
唯一私の母だけは何となくKを理解してくれたと思いますが・・・

もうすぐ中学3年の夏休みでした。
数回適応指導教室に通い、夏休みに入りました。
そろそろ進路を決める時期でしたが、
懇談にも行かないまま1学期は終わりました。