和歌(やまとうた)は、人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、事(こと)業(わざ)しげきものなれば、心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言ひいだせるなり。花に鳴く鶯(うぐひす)、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛(たけ)き武士(もののふ)の心をもなぐさむるは、歌なり。