最近、ベッドに入ってからリパッティの演奏をよく聴く。EMI の Great Recordings of THE CENTRY というシリーズのリパッティの巻で、J.S.バッハ、D.スカルラッティ等の作品の演奏を集めたものだ。収録された演奏はみな好きだ。中でも、バッハのコラール前奏曲「いざ来れ、異邦人の救い主よ」BWV599 の深い河のようなバスの流れを聴いていると、言いようのない感情で満たされる。リパッティの演奏は淡々としているが、息をするようにふと揺れるテンポとごく控えめな強弱法の中に、ピアノで演奏されるバッハの魅力を存分に感じることができる。

このCDを聴くまで、こんなによい曲があるなんて知らなかった。バッハを好きになってからもう20年近くが経つ。なのにまだ、知らない宝が山とある。もしも音楽史にバッハが10人いたら、もう他の西洋音楽の作曲家にはやるべきことは残らなかったのではないのか。そう思ってしまうほど、バッハが創作した世界は大きい。