感想は、とにかく「もったいない」でした。真剣な問題提起がある一方で、脚本と演出にがっかりする場面が多く、奇妙な印象を残す映画でした。
<内容の紹介>
「踊る大捜査線」シリーズの君塚良一が、佐藤浩市と志田未来共演で描いたヒューマンムービー。平凡な4人家族の長男が殺人事件の容疑者として逮捕される。刑事・勝浦は、残された容疑者家族をマスコミと世間の目から保護するよう命じられ…。(「キネマ旬報社」データベース)
私がすごいなと思ったのは、犯罪加害者家族という主題で映画を作ろうという、着眼そのものでした。これまでにも、加害者家族も非常な苦しみを負うものだと知ってはいたつもりだったのですが、実際にどんなことが起こるのかを目の当たりにしたのは、この映画が初めてでした。
このテーマをど真ん中にすえた映画というのは、この作品以外にあったのでしょうか。私はまだ観たことがありません(なお東野圭吾の「手紙」が映画化されており原作は読んだことがありますが、加害者家族の問題はあくまで作品の素材にとどまる印象でした)。
映画では、加害者である兄が逮捕されてから数日間の短い期間を描いています。その間に、家族は自宅を追われてバラバラに避難し、母親は自殺し、個人情報がネット上で曝される事態となります。
実際には、その後も家族の苦難は、死ぬまでといっても大げさでないほど長く続きます。それがどのようなものか、例えば「加害者家族」(幻冬舎新書、鈴木伸元著)には多くの事例について記載があります。
題材の真剣さとは反対に、がっかりする描写も多いです。
例えば映画が始まってすぐ、次のような場面があります。警察による長男の逮捕と自宅の捜索で呆然とする両親に対し、家庭裁判所職員を名乗る男性が、家族への今後の影響を考えてのことだと説明したうえ、名字を変えるためにその場で離婚届と(再婚のための)婚姻届を書かせる。
この場面は、刑事事件や離婚事件に多少かかわっている者からすると、「それはない」の連続です。詳しくは伊東良徳弁護士のサイトに説明があります。
揚げ足取りではなくて、この映画はいい加減な調査や取材に基づいて作られいるのではないかと、どうしても思ってしまうということなのです。その中途半端な態度が、映画に不要と思われるカーチェイスや、変なフランス語を混ぜて話す珍妙な美人精神科医や、ネット住民の嘘っぽい暴走の仕方といった、映画の価値を下げる描写に結局はつながっているのではないかと感じてしまうのです。
こんなテーマの映画は、そうそう作れるものではないでしょう。深刻すぎますし、加害者家族を描くことだけで非難されることすらあるからです。そういう意味で、この映画の企画は本当に画期的と思います。
だからこそ、丁寧に作れば、「それでもボクはやってない」(周防正行監督)と並ぶものになった可能性だってあったはずなのに、本当に惜しいと思いました。
佐藤浩一は、とても素晴らしい役者さんだと思いました。他の作品も観てみたいです。