これも先日図書館でたまたま見つけて読みました。
私は決して社会問題に広く関心があるというタイプではないのですが、格差・貧困はいつか本気で取り組んでみたいと思っている問題のひとつです。なので、本の題名に興味をおぼえました。
内容は著者(元編集者)が独自のアンケート調査により収集したデータを使って、著者が「下流」と呼ぶ階層が形成され、それが固定化されている実態を書いたものです。また、その下流階層がどんな特徴を備えた層なのかを様々に述べています。
こう書くとなんだかしかつめらしいですが、語り口は非常に軽く、たまに悪ノリが過ぎると感じられるくらいです。
この本で私がユニークだと思うのは、著者の分析の対象がかなり徹底して階層「意識」であることです。
そもそも調査の対象となる人がどの階層に属するかの基準について、所得等の客観的要素ではなく、「自分がどの階層に属すると思うか」という主観を基礎にしています。そのうえで、どういう時に幸福感を感じるか、生活の中で何を重視するか、自分がどんな性格かといった、これも主観的な点で、階層によって顕著な違いがあることが述べられています。
こうした調査は他であまり見たことがなかったので、非常に興味深く感じました。
ただ、その原因の分析は相当乱暴なので、著者自身も書いているとおりあくまで仮説くらいにとらえたほうがよさそうです。
例えば、私のような団塊ジュニア世代では、「自分の人生に対する考え方」について、「自由に自分らしく生きること」との回答率が、自分を上流と考える層では58.3%なのに対し、下流と考える層では75.0%とかなり高くなっているそうです。これをとらえて著者は「自分らしく生きる」という夢から醒めない若者が下流階層を形成している可能性を示唆します。
しかし格差社会での大きな問題のひとつは、いったん下層に落ち込んでしまうと人生における選択肢が極端に狭くなり、「這い上がれない」状態に陥ることだと思います。その中で「自由に自分らしく生きる」ことは非常に困難です。
自分を下流とみなす層で「自由に自分らしく生きる」の回答が多かったのは、まさにそれが実現困難な夢であるからかもしれないとも思うのです。
思いのほか長くなってしまいました。
後で知ったのですが、ずいぶん売れた本なのですね。しかも、データの扱いがいい加減だったり、分析が強引すぎる点についてかなり批判もあるようです。
個人的には、学術書ではないのだし、そのつもりで読めばこれもよいのではと思います。確かにそもそもサンプル数が少ないのは弱いところですが、自前でこうした大規模で興味深いアンケートを敢行している点は貴重と思いました。