「男ってのはな、おっさんになっても、頭の中は中学生で止まってるんだよ。いくら真面目な顔してたって、頭ん中じゃ『ちんこ』とか『まんこ』とか考えてるんだ。同窓会では、いいオヤジが『うんこうんこ』っつって笑ってんだぜ。そんなもんだよ。」

 

僕が中学生の頃、当時40は越えてたであろう叔父さんが放った言葉だ。僕は今年で34になるが、未だにその言葉は鮮烈な印象と共に頭に残っている。歳を重ねるごとに、この世のことわり、すなわち真理にすら思えてくる。普段は演技としての『おとな』を演じているだけで、頭の中は『鈴村あいり』でいっぱいなんだ。大事な会議中だって、会社の女子と話している時だって、クライアントに怒られている時だって。頭の中は『今日はどんなオナニーをするか』でいっぱいなんだ。きっとそうだ。みんなそうなんだ。そう思わないとダメなんだ。みんなそうだろ?

 

去年、僕が企画をし、会社の仲間、男6人で熱海旅行に行った。3月ということもあり、まだ肌寒い熱海。なんでこんな季節に熱海旅行を企画したのか全く覚えてないし、当時もさんざんディスられた。

 

品川から電車で1時間半。旅行と呼ぶには近すぎる距離だが、遠かったら参加者がぐっと減るのは分かっていた。僕の人望なんてそんなもんだ。

 

熱海駅に着くと、東京よりも寒かった。『熱海』という文字が醸し出す、『あったか〜い』雰囲気には完全に騙されるかたちになったが、ほんのりとかおる潮風と、これから始まるであろう楽しい珍道中に思いを巡らせ、三十路男6人のテンションは最高潮に達していた。

 

しばらく歩くとテレビでよく観る商店街が見えてきた。しかし様子がおかしい。

 

「あれ?今日って熱海やってないの?」

 

熱海がやってない。

 

そう思えるくらい閑散としたシャッター商店街がそこにはあった。オフシーズンど真ん中なので、考えてみたら当たり前なのだが、ここまで閑散とするか、というくらいに何もなかった。

 

とりあえず旅館にチェックインをして荷物を置き、三十路男6人で海に行ってみた。たどり着いた熱海サンビーチは相変わらず閑散としていた。かろうじて1組の20代前半とみられるカップルが裸足で浜辺を歩いている。

 

誰もいない海で、恋人とふたりきり。ふたりが世界の中心なんじゃないかとさえ思っている様子だったので、これはいけないと思い、32歳と35歳のおっさん同士、手を繋ぎながら走ってカップルに近づいた。カップルとの距離を3mほど保ちながら、浜辺で水のかけあいっこをしてみせた。カップルは不思議と驚く様子もなく、ゆっくりとその場を離れて行った。

 

楽しそうに水をかけあっているおっさんふたりの邪魔をしないように、気を使ってくれたんだ。なんて優しいカップルなんだ。いつまでも仲良くするんだぞ。彼女を泣かせるなよ。浮気するなよ。元気でな。

 

今思えば、やばいおっさんが来たから、自分たちの身を守るために、なるべく刺激しないようにゆっくりと離れていっただけのことだったのだろう。

 

海に来る用意を何もしていなかった僕たちは、靴と靴下を手に持ち、濡れて砂まみれの素足で熱海の街に繰り出していった。

 

つづく