5月末の夕方。
灼熱の陽光が、地に人に、そして猫にも降り注いでいました。
いつものように、高い台の上にちんまり座っていたねねこに近づいて。
いつものように、そっと彼女の頭を撫でると。
彼女はひと声も出さず、鋭い爪を。
突然、私の右の手のひらに突き立てました。
──一瞬間、私の動脈から鮮血がふき出しました。
ねねこ……?
どうしてこんなことするの?
パニックになりながら階段を駆けあがり、アパートの自室に飛び込みました。
ねねこがいた周辺も階段もドアの前にも。
赤い血がボタボタ落ちてしまいました。
どうしよう、どうしよう……!
とにかく、血があとからあとからわいてきて、止まらないのです。
とりあえず手をハンドソープでよく洗い、患部にキッチンタオルを巻き付けて。
パソコンで応急の止血法を検索しました。
見つけた止血法に従って、とにかく血が止まるように尽力しました。
──手の痛みは、不思議とまったくありませんでした。
ただただ、びっくりしてしまったのです。
止血していると、私はだんだん腹が立ってきました。
いつもねねこの身を案じているのに。
無責任な餌やりはしないけれど、
声がけをしたり、ぐったりしていないか様子を見たり。
何か浮遊物が浮いていたり、空っぽになってばかりの水入れに、
こまめに汲みたての水を入れているのに。
どうして、どうしてこんなひどいことをされるんだ。
……結局、動物なんて、単なるけだものだ。
わからない、わからない、わかりあえっこない。
こっちがどんなに想っても、いつだって虚しくからまわるだけ。
そういった暗い考えに行きついた私は。
翌日から、ねねこを無視しました。
目が合うと「ねこ野郎」と、ひとこと罵りました。
そんな日々が、すこしのあいだ続きました。
私の腹立ちを、敏いねねこは感じとっていたのでしょう。
私の足に、頭をすりつけてくることはなくなりました。
つづく
