自分にとっては何でもない日々でも、他の人にとっては特別な日なんだよ。
というのを見たときに、ちょっとだけドキッとした。
顔も名前も知らない人が140字制限の中で呟いたその言葉は思いの外自分の中に響いていた。
しかし、その響き方はおそらく一般の人とは違うだろう。
何でもないと思っている日に、ほかの誰かは「特別」を感じているなんて不公平だ。
私だって人並みに「特別」な日々を過ごしてみたい。
そんな感情を抱いていたのは就活に失敗して今のバイト先に勤め始めた2年前の春のこと。
皮肉なことにその文言に出会った3日後が自分の誕生日で、特別感もなく過ぎ去っていったのも私らしい。
「なんでそんなこと思い出したんだろう…。」
アパートを出て少し歩くと大通りに出る。
まばらな人ごみの中を歩きながら呟いて、ふわぁっとあくびをし、空を見上げた。
スマホをポケットから取り出して時間の確認ついでに届いていたメールを確認する。
「あっ、そっか…。」
母親からの控えめな誕生日おめでとうメールを見て、私はなぜその言葉を今日になって思い出したかを理解した。
そうだ、いわゆる「特別」な日だ。今日は。
それも家族からのメールで気づくなんて、よっぽど自分にとっては「何でもない」日なのだと再認識する。
まじか、と小さくつぶやいてスマホの画面を消す。ポケットにしまってまた前を向き直した時だった。
向こうから歩いてくる少し大きめな人間の集団をよけきれず、左肩がぶつかってしまった。
その拍子にパンプスの短いヒールがタイルの溝に引っかかった感覚がし、私はそのままバランスを崩して倒れた。
偶然にもその隣にあった暗い路地に倒れこむ。
咄嗟に出した右手に鋭い痛みが走った。
「いった……。」
ゆっくり起き上がって、ズボンについた汚れを払い立ち上がると、偶然入ってしまった路地の先を目指す。
方向は間違っていないだろう。右折が少し早かっただけだ。このまま歩いていけば反対側の大通り出るはずだろうと思い、私はそのまま歩き出す。
それにしてもこんな道、入ったことがないな。なんだか頭がぼんやりする。右手が痛いけど、なんだかぶつけた頭もいたいみたいだ。
やけに薄暗いし店もない。
だけど先には光が差し込んでいる。私は特に不安感もなくそのまま光に向かって歩いて行った。
***
「あっすんません。…あれ?」
ぶつかった集団の一人が謝罪するが、先ほどぶつかった女性はもうそこにはいなかった。
仲間に促され、その違和感を払拭し歩き出した男はそのことを友人に尋ねるが、特に関心もないようだ。
「いやでもおかしいって。」
「なんで?そのまま曲がっていったんじゃないの?」
その時ぶつかった女性は確かにそのまま横に倒れてしまったはずだ。そんなにすぐに起き上がって歩いていけるものだろうか?
振り返ってみてもその女性らしき人は見えないし、どうにもおかしい気がする。
そのことを伝えるとさすがの友人も興味を持ったのか、その場に立ち止った。
「え?じゃあ戻ってみる?」
「うん。悪いな。」
先ほどぶつかったあたりまで来てみたが、そこにはさっきの女性らしき人はいない。
友人もさすがに少し異変を感じたようだ。
「ここ、路地とか…」
「やっぱりない、よな…」
右折したんじゃないかと言ってた友人の一人がその違和感を口にしたところで、全員が顔を見合わせた。
あの女性はどこに行ったんだ?
さっきぶつかった時は間違いなく左側に倒れてしまい、どさっと人が転ぶ音がしたはずだ。
その時すぐに謝ったはずなのに、そちらに目をやるとその女性はいなくなっていた。
そんなことを考えていると、友人の一人が「あっ」と声をあげる。
友人の手にはずいぶん履き潰された片足だけのパンプス。
直感的にあの時ぶつかった女性のものだとわかり、落ちていたという場所まで行ってみる。
「えっ、待てよ。ここ路地とかねえって。」
「普通靴が脱げたら気づくだろ。」
この靴があの女性のものではなかったとしても、こんなところにパンプスが片足だけ落ちているなんてことあるだろうか?
なんだかわからない怪奇現象に、男たちは言いようのない不安を感じた。
しかしそれと同時に、この不思議な体験を放っておけない奇妙な好奇心をも抱いていた。
男たちは女性のパンプスをそのままさっきの買い物で得た新しいビニル袋に入れ、女性が消えたであろう場所の写真を撮ってから作戦を練るべく近くのファストフード店へと向かった。
***
どこに向かうかは誰も分からないお話になりそうです。
名前を考えるのが面倒くさくて名前を出していない。
