ああ、あの時こうしていれば。
なんて言葉は今までに何度も心の中でつぶやいた。
最初はそのこと自体に気づいていなかったけど、25年生きてきて、やっとそのことに気づいたものだ。
「うっわ…昨日早く寝たらよかった…。」
相変わらずどうやったらそんな髪型になるんだと突っ込みを入れたくなるぐらいひどい寝癖で視界が半分遮られたまま、何度かのスヌーズを繰り返しいつの間にか鳴らなくなった目覚まし時計をわしづかみにする。短針はすでに9と10の間にあり、12時からのバイトのことを考えると心も体も重くなった。
「もー…私が起きるまで鳴っててよ…!」
がん!と目覚ましを乱暴においてもはや意味もないのに目覚ましを止めるボタンをバシバシとたたいた。
カチッ
「え?」
一瞬目覚まし時計から今まで聞いたことのない音がした。
さっきまでバシバシ叩いたくせに、予想外の出来事にビビって私は動きを止める。
しかし時計を見てみても、今まで通り秒針は動いているし、特に問題はなさそうだ。
私はホッとしてむくりと布団から出た。
「あーえっと、シャワーして……めんどくさ…。」
8時半のアラームなんて嘘だ。そう思いつつスマートホンのチェック。最近よく送られてくる妙なメルマガが届いているのと、最近はまっている携帯ゲームのライフがたまった通知くらいしか、私のスマホには届かない。
そういう人生だから。
***
別に私が他人に比べて悲惨な人生を送っているとかそういうわけではない。
いや、むしろ平凡すぎるくらいだ。小中高大とその辺にいる世間一般の人たちと一緒に毎日生きてきて、今この生活が他人と少し違っているとしてもそれは個人差の範囲だ、と思っている。
ただ少し考えてみれば、私は就職に失敗して、ろくに付き合っている人もいなくて、のめりこめる趣味も特にない。
とりたてて特技もなければ、顔もスタイルもふつう。物好きの好みにたまに引っかかる程度の見た目だ。
普通、むしろちょっと普通以下の人生を送っていることは自分でもよーくわかっているつもりだけど、私は自分がそうであることから抜け出す気はなかった。
抜け出す元気もないし抜け出す方法も分からない。それならこのままでいいかなぁと思ってしまうのだ。
それくらい私は普通だった。
でも心の中ではきっと、そんな自分に少なからず危機感を感じていたのだろうと思う。
そう、今では。
あの時こうしていればが積み重なって、だんだんと普通以下に落ちていく自分に、心のどこかで腹を立て、見下し、憐れんで
でも動き出す気もなかったから。
「今日も行きますか…。」
私はもう何年も買い替えていないパンプスをひっかけて気だるげに家を出る。
外の景色はいつもと変わらないが、なんだか今日は見え方が違う、その理由はわからないが私は感じたことのない違和感も適当に流してアパートの階段を降りていった。
(あの時時計をたたいていなければ)
(違和感はなかっただろう)
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「あの時こうしていれば」にプロットもなにもありません
ただタイトルのままです。ファンタジーです。えせふぁんたじすた。