アーカーベーのニューシングルの選抜メンバーの中に、ヤブシタシュウの名前はなかった ヤグラフウコも選抜落ちし、当然と言えば当然なのだが、シロマミルが選抜されたというのが気に入らない そして、事件は起こる 全国握手会では、ヤマモトサヤカ、ワタナベミユキ、そしてシロマミルが独りレーンとなった 握手会開始となってすぐに、シロマの列には、ヤマモトには及ばなかったものの、ワタナベと同等の人数が並んだ それに比して、他のメンバーの列には、閑古鳥が鳴いている そこで、或るシロマヲタは、空いているヤブシタとヤグラの列に並び、握手していた そして、握手会が後半をむかえ、ほとんどのレーンに列ができるようになると、そのヲタはシロマと握手を始めた もちろん、シロマに悪気がなかったのはわかる しかし、シロマの屈託のない大きな声が会場に響き、辺りは一瞬、凍り付いた
「もー、ミルが忙しいからって、他のメンバーと握手してたでしょっ」
ヤブシタとヤグラが、シロマの方を睨む 彼女たちと握手していたファンもが、シロマの方を見たほどだった ヤグラが、顔を覆って泣き出した 彼女の行動が、いかにプロ意識に欠けたものであるかは言うまでもない ダブルセンターに選ばれていても、シロマとの差は歴然としていた プライドが音をたてて崩れていく ヤブシタも肩を震わせている 顔面は紅潮し、握手会は中断を余儀なくされた…
エスが一枚岩かと問われれば、首を縦には振りかねる ワタナベミユキは、独り、黙々と練習するナカニシユカを見つめていた キャプテンのミヤザワサエを、常にキタガワリョウハとアズマリオン、ミヤマエアミが取り囲んでいる マツイジュリナ不在時のエスは、ミヤザワの独裁状態であった
「よおっ」
肩を叩かれ、振り向くと、ユウコが立っていた
「久しぶりだな」
「ユウコさん…」
グループ全体が動き始めたようだ ワタナベミユキは、わくわくする気持ちを抑えるのに必死だった
「サエ、イキイキとしてるな 実は、先日、アヤカ(ウメダアヤカ)に、私とサヤカ(アキモトサヤカ)とサエが呼ばれて、てめえんとこの若い衆と飯を食った アヤカはビーⅡを率いて、てっぺんを目指すつもりらしい それで気になってよ、チョリ(ナカニシチヨリ)にナンバを、アンニャ(イシダアンナ)にサカエを探らせているんだ 今回のセンター交代劇は、影でサエが動いたらしい ジュリナとレナは、サカエを捨てるぞ しかし、この流れは、上層部の思惑通りらしい てめえがエスに来たのは、ふたりの穴埋めだ 私は、サヤネエ(ヤマモトサヤカ)とユイハン(ヨコヤマユイ)にケーを託した 上層部は、トラブルを起こしたてめえにエヌを牛耳られるのを恐れて、ビーⅡに移し、ついでにサカエの尻拭いもさせたんだ 私はケーを愛している ユキリン(カシワギユキ)にも、サエにも、アヤカにも、てっぺんは渡さない」
「ユウコさんは、ヨコヤマさんが、ミヤザワさんに呼ばれたのはご存知なんですか?」
その席に、ミユキも呼ばれたのだ ヨコヤマユイ、ヤマモトサヤカと、ジュリナをアーカーベーのセンターとして、補佐して欲しいとのことだった ミヤザワは、キタガワを、次世代のてっぺんに立たせるつもりだ
「ああ、サヤネエから聞いた サエも、アヤカも、まだ戦ってるんだ 私はケーを大切に思っているが、奴らは、それぞれのチームで戦うしかない おまけに、サエはキタガワを、アヤカはヤブシタを可愛がっている モチベーションも高いんだ 次世代のてっぺんを育てることが、奴らの最後の仕事なんだろ そう、私が、サヤネエを育てたようにな…」
ユウコが遠い目をした
ミユキは、ユウコと共に戦った日々を思い出していた 当時、ビーに兼任していたミユキは、ワタナベマユ、カシワギ、サシハラリノの連合軍と戦うユウコを、補佐したのだった しかし、どういうわけか、ユウコはミユキを放した 早々と、後継者にマユを推し、ヨコヤマとヤマモトを補佐役として育て始めたのだ どうやら、ユウコは、マユとミユキの関係を疑ったらしい 当時のミユキの勢いが、ユウコさへも恐れさせたのだった もしかしたら… 私が失脚したのも… ユウコとミユキの視線がぶつかる
「勘違いするな てめえを陥れたのは、私じゃない てめえは、サヤネエのライバルだが、敵じゃないだろ」
ユウコが苦しそうに微笑む
いずれにしろ、ミユキは権力闘争に破れたのだ
「ユウコさん、私の生きる道はありますか」
ミユキの鋭い眼光を、しっかりと受け止めるユウコ
「心配するな てめえは、まだ死んじゃあいない サエも、アヤカも、てめえを獲りにくる 上層部の誤算は、サエとアヤカのターミナルを見誤ったことだ こともあろうか、てめえを奴らに近づけてしまった てめえは、今や、キーパーソンだ 私は、ケーを守るぜ」
そう言い残し、ユウコは去っていった


