“誰かのために”
大島優子は秋元才加の動きに注目していた 珠理奈の移籍が発表されてからも知らぬ顔を決め込んでいる 大島は秋元にもう一度、AKBに対する情熱を取り戻させる方法はないか考えていた 旧チームKを復活させたらどうだろう もう一度、組閣祭りを行って、旧チームKを復活させる そして、珠理奈をチームAに移動させたらいいんじゃないだろうか 麻里子や陽菜の方が教育係としては適任だろうし、前田の抜けた穴を補うためにも珠理奈はチームAの方がいいような気がする 大島は、チームKの黎明期の公演に高橋みなみが訪れたときのことを思い出した 悔しくて、情けなくて、チームAを越えることだけを考えて頑張っていたあの頃 夢は遠くにあるものだが、目標は目の前にないと おそらくチームBも、チームAやチームKを目標にして頑張ったのだろう 果たして、今のチーム4に目標はあるのだろうか チームKは、チーム4やチーム
8の目標となるようなチームにしなければならない そのためには、劇場公演に力を入れて、彼女たちのよき手本になる必要がある 今のように、アンダー中心の公演では、勉強のしようもないし、目標にさへなれない 旧チームKのメンバーは、あまり選抜されないが、タレント揃い おまけに半数以上がまだAKBに残っている 今しかない、自分のためだけではなく、誰かのために頑張る 後輩のため、仲間のため、ファンのため、わたしたちを愛してくれたすべての人びとのために…
突拍子もない話に秋元才加は呆れていた しかし、熱く語る大島を見ているうちに、AKBに入った頃の思い出が甦ってきた 毎日、喧嘩するみたいに熱く語り合ったよなぁ…
大島は、松井玲奈と山本彩を呼んだ
「AKBには大島優子っていう役割があるのを知ってる?」
大島の微笑みに、二人は背中に冷たい汗が流れるのを感じた
「大島優子っていうのはもちろん本名なんだけど、芸名でもあるの わたしはAKBの大島優子って役割を演じているのよ」
大島は目を閉じた そして暫くの間、沈黙は続いた
「本当のわたしはAKBの優子のように明るくなんかないの 変顔なんて、普段は絶対にしない でも、わたしが恐い顔してたら、AKB全体の雰囲気が悪くなるから 難しいのよ、顔に出さないのって だから変顔するの そりゃ気分悪いときに変顔するのは大変だけど そんなときは自分に言い聞かすの あっちゃんに負けたくなければ、皆を笑わしてみろって あっちゃんはわたしよりも、もっともっと苦しい思いをしているんだからってね」
再び大島は黙ってしまった 玲奈と山本を鋭い視線が貫く もうこれ以上は言わなくてもわかるよな…
玲奈が沈黙を破った
「わかりました SKE、いやAKBの松井玲奈の役割を果たします」
山本も頷いた 今、この場にいることの重大さに身震いした
前田敦子は、板野友美とともに、AKB48劇場の客席から舞台を眺めていた 約6年前のまだ子供だった自分が踊っている 長い道程だった 何度も潰れそうになって、いろんなひとたちに助けられてここまでやってきた 自分で言うのもなんだが、よく頑張ったと思う しかし、それは自分がやりたいからやったのであって、誰のためでもない わたしはAKB48に人生を捧げようと決めたのだから
「ごめんね、トモ 相談もしないで勝手なことして」
「謝ることなんてないよ 敦子が悩んで決めたことなんだから トモは敦子のことを応援する」
こうやって二人きりで話すのは久しぶりのような気がする
「ありがとう… 西武ドーム、楽しかったね 皆、成長してたんでびっくりしたよ」
「忙しかったからね 自分のことだけで精一杯だった それじゃ駄目なのはわかってるんだげど 敦子、もしかして」
板野と前田の視線がぶつかった
前田が優しく微笑む
「誰かのために… あのコンサートも楽しかったね ボランティアっていうと生意気なようだけど、わたしたちのパフォーマンスが被災者の皆さんに勇気を与えられるんだよ こんな幸せなことないよね」
板野は前田を抱きしめた この温もりは一生忘れない
「敦子、いつでも戻ってきていいんだよ 苦しいときは苦しいって言わなきゃ 独りで背負い込んじゃ駄目だよ」
前田の頬を涙が伝う
「ごめんね AKBのこと、お願いします わたしは、“誰かのために”辞めるんじゃないから 自分の夢のために…」
溢れ出る涙で声にならない
板野の目からも涙が溢れ出る
「わかったから もう何も言わなくていいよ 皆で力を合わせて頑張る」
オイラのAKB48は伝説になりました 前田敦子さんのいないAKB48は考えられませんから…
残された時間でAKB48が生まれ変われるのかどうかは定かではありませんが、オイラは伝説を愛し続けるつもりです
