「まだまだやれます」
乃木坂学園ハシモトナナミが、優子にしがみつく
「楽しいー、やっぱたいまんはいいよな」
優子は、ハシモトに、容赦のないボディーを打ち込んだ 胃液を吐き出し、うずくまるハシモト
かねてからの約束を果たすべく、優子はハシモトとのたいまんに臨んだ そして、これか、優子の人生にとって最後のたいまんとなるのだった
「まだまだ」
ハシモトの右ストレートが、優子の顎をとらえた 膝から崩れ落ちる優子 間髪入れず、ハシモトの蹴が優子の顔面に入る
「なかなかやるじゃねえか(笑)」
優子は立ち上がると、ハシモトにタックルする もろともせず、受け止めるハシモト 膝蹴が優子のボディーに突き刺さる
「死ねや」
ハシモトが左フックを放つ しかし、それをかわす優子 ふたりの目が合う 微笑む優子 次の瞬間、強烈なアッパーがハシモトをふっ飛ばす 決まった…
地面に叩きつけられ、動かないハシモト 優子も、地面に大の字に寝そべる
「生きてるか、ハシモト」
「なんとか」
そう呟くと、ハシモトは大声で笑った
「あはははは、あははは… ありがとうございました、優子さん いい思い出になります 自分、ヤンキーになったことを後悔しません 上には上がいる 優子さんに出逢えて、よかったです」
厳しい冬が終わり、仙台にも桜の季節がやってきた こっちの馬路須加女子学園には、卒業式はないらしい よほどのことがない限り、留年もないし、自動的に卒業となる 優子は、桜の花びらを浴びながら、マエダアツコ、タカハシミナミと別れの時間を過ごしていた 二人とも、介護士になるための新しい生活が待っている
「優子、これからどうするの」
マエダが別れを惜しむ
「さあ、しばらくはブラブラするつもりだ わたしは天涯孤独だからなあ」
優子が微笑む
「てめえは孤独じゃねえよ 俺たちがいるだろ それから、てめえを頼りにしているおじいちゃん、おばあちゃんがいる 俺たちは、ここにいるから いつでも戻って来いよ」
タカハシが優子をハグする 次いで、マエダもハグした
「そんじゃ行くわ (ワタナベ)マユのこと、ラッパッパのことを頼む」
そう言い残し、優子は旅立って行った 優子の背中が見えなくなるまで、見送るマエダとミナミ しかし、優子が振り向くことはなかった…
桜色のパーカーのフードを目深に被ったネズミ(コジママコ)が、優子の前に立ちふさがる
「どこに行かれるんっすか?」
「さあな」
微笑む優子
「たいまん、まだなんっすけど」
ネズミの眼光は鋭い
「たいまんは卒業した 悪いが、相手はしてやれねえ わたしは、もう社会人だ 高校生を殴ったら、逮捕される」
ネズミの脇を通り過ぎる優子
「どうして、あっしをラッパッパに入れたんっすか あっしは、裏切りもんなんっすよ」
口の中からチューインガムを取出し、弄ぶネズミ
「てめえは、そのガムと一緒だ ラッパッパという口の中に入っとけ 指で弄ぶためのものじゃねえ ガムにも生まれてきた意味があるんだよ 夢を膨らませろ それから、ダチは大切にしろよ」
振り向くことなく、右手でバイバイしながら、優子は去っていった
「ガムと一緒か… あんた以外の奴に言われたら、半殺しにするんっすけどねえ…」
そう呟いて、ネズミは優子の背中に深々と頭を下げた
それから仙台に何度も桜の季節が訪れた 満開の桜の下を歩く小柄な女性 大きなバックパックを背負い、キャリーバックを引っ張っている 女は、コンビニを見つけると、お茶と食料を調達しようと立ち寄った 雑誌コーナーの前を通ったとき、一冊の週刊誌の表紙に目がとまった “なにわの介護が変わる!” 女は、その週刊誌を手に取り、開いた 特別養護老人ホーム・ラッパッパ施設長であり、なにわ介護サービス協会施設部会長であるヤマモトサヤカと、なにわ介護士労働組合長ワタナベミユキの討論の様子が書かれていた どうやら、ワタナベは、介護に携わるすべての労働者を公務員として採用するように要求してるみたいだった 女は、その記事を読み終えると、顔をにやつかせ「やってるじゃねえか」と独り言を呟いた 女は、菓子パンとペットボトルのお茶とその雑事を買うと、桜の木の下のベンチに腰を下ろした ヤマモトサヤカが、マユの父親の経営する特養で働いているとの噂は聞いていた しかし、ワタナベまでもが介護士になっていたとは その記事には、ジョウニシケイ、ヨシダアカリ、コンドウリナの名前も載っている 「相変わらず、マジな奴らだなあ」 女は、雑誌をさらに読み進めていった “謎の風俗嬢にゃんにゃん” 「なんじゃこりゃ?」 女は、独り言にしては大き過ぎる声を上げた にゃんにゃんは、風俗嬢の経験を生かし、障害者の性の悩みについて真剣に取り組んでいるとのこと 彼女は、障害者の心の中が見えるらしく、トラウマを優しくケアするのだそうだ 「マジっすか」 女は再び声をあげた そこには、微笑むコジマハルナの写真が… そして、さらに読み進めていくと“史上最年少大臣誕生”という記事が 参議院議員ワタナベマユが介護・地域包括ケア大臣に任命されたという記事だった 「そうか… マユの野郎は、おやじさんのあとを継ぎやがったんだ なになに、仙台馬路須加女子学園校長タカハシミナミ、仙台老人施設協会理事長マエダアツコとタッグを組み、ボランティアを本格的に地域包括ケアに取り入れるだと」 女は雑誌を閉じると、菓子パンを口に押し込んで、お茶を一気に飲み干した 「皆、頑張ってるんだなあ…」 女は立ち上がると、来た道を引き返す 「こりゃ負けちゃいられねえ」 女は発展途上国に介護のノウハウを輸出し、教育して、少子高齢化で介護労働力の不足に悩むこの国に、介護労働力を逆輸入することを目論んでいる すでに、多くの外国人が、介護士としてやってきており、スキルはすでに習得しているので、即戦力となって重宝がられていた マジ女に寄ろうかと考えいたが、女は空港へと歩を速める 次は、どの国に行こうか…
馬路須加女子学園校長キザキユリアは、前から歩いてくるパーカーのフードを目深に被った女に声をかけた
「コジマ先生、スチューデンツの様子はどうですか?」
「そうっすねえ…」
そう言うと、チューインガムを膨らました
「入学して一週間も経ってるのに、まだたいまんしたって噂は聞かないっすねえ」
「最近の若いピーポーは活気がなくていけません こんなことでは、どっちが介護されてるのかわかりませんねえ 優子さんがおられたら、さぞかし悲しまれるでしょう」
キザキが眼鏡を外した
「まーじーだーよ マジにならなきゃ、生きてる意味がないんだよ」
続く… いや、取り敢えずは、いったん終わりm(__)m



