来春以降、苑田尚之先生の通期や講習での受講を考えている人に向けて解説していく。

[概要]

 苑田先生の授業は大学以降のことを念頭に、古典物理学を(高校数学のレベル+αで語れない部分を除き)一切の妥協なく語る授業を展開する。対称性の話から始まり、物理モデル、そして力学・熱力学・波動・電磁気・前期量子論へと続いていく(生授業の場合、年度によって熱力学などの順番が変更されることがある)。

 対象層は”自然科学に興味があり、本格的な勉強をしたい人”である。これは先生自身が一番最初の授業で述べており、例え文系の学生であろうとも構わないとのこと。

 

「授業」

 ・全般的な部分

 古典物理学をゼロから大学教養レベルの内容までを膨大な量の板書と口頭説明をもって説明する。その為、物理に費やす時間と労力はそれ相応になるが、最終的な到達レベルは大学入学後の物理学にすんなり入っていける段階まで行く。授業は基本的に原理・基本法則解説→簡単な現象例で基本事項の説明→入試問題解説という順に進んでいく。理論解説は非常に体系的かつ整理されており、基本法則の成り立ちや解釈、定義を細かく正確に解説する。基本事項の説明は、典型的な現象例を用いて物理法則を確認していく(衝突を例にとると、平面上での一次元・二次元衝突、固定面・可動面衝突の典型パターンを解説する)。入試問題解説はテキストや配られた補充問題の解説。上記の内容はほぼすべて板書してくださる。しかし、口頭でより身近な具体例や注意点、物理における常識などを述べるので聞き逃さないようにしたい。また、授業の度に学問に対する向き合い方や高いレベルの世界にいる人とはどういう人なのかを力説される。

 

 ・Newton力学

 対称性の話から必要最低限の微積分解説そして物理モデルについて話した後、運動学、運動方程式で力学の構造を説明し、二体問題(Kepler問題なども含む)や単振動、剛体、流体に関する力学を解説していく。力の見つけ方あるいは束縛条件の話、衝突におけるベクトル図、さらに力学における時間反転対称性などの高校や参考書等ではなおざりにされている、または載っていないものまで徹底的に解説してくれるので非常に実りの多い内容となっている。また師の授業を受ける前に学生が必ず履修している為、理解が進みやすく、最大の目標ともいえる”基本法則から考えるという姿勢”を身につけるのに最も適している。なお、先生も「力学は満点以外お話にならない」と述べている。個人的に最も受講を勧める分野である。

 

 ・熱力学

 熱力学とはどのような分野なのかから始めて、気体分子運動論、気体の状態変化(断熱変化や熱サイクル、熱気球の原理など)を解説する。熱力学は”現象論”の立場をとっていること、高校数学の制約から内容は初等的な範囲(高校レベル+α)にとどまる。先生曰く「熱力学は学生さんが最も早く自分で議論できるようになることが多い」とのこと。とはいえ、他の分野と違わず非常に厳密かつ正確に議論していくので、こちらも充実した授業になる。(現象論≔物質のミクロな内部構造や内部運動には立ち入らず、マクロに観測される諸物理量の間の関係を、経験的に得られた原理・法則をもとにして定式化して論ずる立場 「新・物理学辞典」 講談社ブルーバックスより)

 

 ・波動

 波動の表現(波の式)から力学的波動、そして光(場の振動の一例)の順に講義していく。こちらも熱力学と同様に現象論的側面が強く、一次元波動の範囲の議論にとどまるが、波動方程式の簡単な解説などもある。斜めDoppler効果やレンズ設計の部分などで近似計算を、波方程式のところで偏微分を使うことになるので、微積の数学的素養をかなり高めておかないと躓く。

 

  ・Maxwell電磁気学

 苑田先生の授業でおそらく最も難易度の高い分野。電荷や場、電磁気力の定義を確認した後、Maxwell方程式全体を定性的に議論し、各式を一つ一つ定量的に見ていく。具体的には電磁場のGaussの法則、ポテンシャルエネルギー、コンデンサー、電磁場中の荷電粒子の運動、Ampere-Maxwellの法則、電磁誘導、交流回路を講義する。電磁気は他の項目に比べても扱う数学のレベルが高い。線積分・面積分(名前は出していなったがStokesの定理など)、偏微分、広義積分、外積(力学の際に解説される)に関しある程度理解してないと板書を取るだけで終わってしまいかねない。余談だが、Maxwell方程式は積分系で表される。

 この分野はおそらく理解するのに相当時間がかかり苦労するだろうが、参考書等では替えがきかないので積極的な受講を勧めたい。

 

 ・前期量子論

 光電効果、Compton効果、de Broglie波、原子の構造、放射性崩壊を講義する。今まで学習してきた古典物理と対比させながら、かなり物理の歴史を絡めて解説される。この物理学史はかなり面白い。数学的なレベルは電磁気を乗り越えれば既習範囲になり、また内容も量子力学の入り口なのでゆとりをもって受講しやすい。