客席に首がゴロリ、会場一帯の盛り上がり

恵比寿役の小学6年生が老婆役を見事に

 

4匹の大蛇退治に挑むスサノオノミコト

 

 島根県大田市温泉津町にある「龍御前(たつのおまえ)神社」での夜神楽鑑賞、その夜のハイライトは「大蛇」という演目だった。須佐之男命(スサノオノミコト)が娘(稲田姫)を大蛇に食べられてしまうと嘆く老夫婦を助け、夫婦が作った毒酒を大蛇に飲ませて酔わせて退治、稲田姫とめでたく結ばれるというストーリーだ。

 

会場を圧倒する大蛇のボリューム

 

 大蛇は舞台の大きさに合わせて登場するらしく、この日は4匹だったが、場所によっては8匹が現れて大暴れするのだという。

 

 しかし4匹でも龍御前神社の小さな舞台には十分だった。胴回りは優に2㍍、頭から尻尾のさ先では7~8㍍もあろうかという4匹の大蛇が、時には須佐之男命を巻き込みながら、所狭しと暴れ回る。

 

毒酒を盛られた大蛇が暴れ回る

 

 舞台の目の前のかぶりつき席の客の体を跳ね上げた大蛇の尻尾が叩いたり、毒酒が入っていた木桶が客席に転げ落ちたり、舞台の上と下が混然一体となった大騒ぎがまた楽しい。

 

 延々と繰り広げられた大立ち回りの後、須佐之男命は4匹の大蛇の首をはね、はねられた巨大な頭の部分も客席にゴロリと転がり落ちる。石見神楽の代名詞ともいえる大活劇に、会場は最高の盛り上がりを見せた。

 

時にはスサノオノミコトの姿も見えなくなる

 

 三つの演目が終わり、メンバーのみなさんが全員そろっての挨拶。毒酒を造った老婆がお面を取ると、二つ目の演目で「恵比寿」を独演した小学6年生の男の子が演じていたことがわかり、再び客席が湧いた。

 

右端の老婆がお面を外すと…

 

 地元の人に地域と神楽の結びつきについて、聞かせてもらった話が心に残っている。

 

 「幼いころから神楽の虜になる子供も多く。年を取って舞台に立てなくなるまで続けたいといいます。地域を離れたくないため、中学を卒業すると地元の小さな会社に就職して神楽を続けるんです。勉強ができるかどうかという物差しは無関係。神楽をやっている子供は例外なく気持ちのきれいな子に育つんですよ」

 

 それもまた数百年にわたってこの伝統芸能が地域に根付き、地域に支えられて息づいてきた理由の根幹に関わる話かもしれない。

 

ひとりが何役もこなさなくては回らない

 

 この夜の温泉津から、広島県安芸高田市の神楽ドームと続いた神楽体験。こうなると同じ出雲神楽をルーツに持つ自分自身の故郷に近い岡山の備中神楽を観ておかずにはいられない、そんな気持ちになってきた。