小学6年生の主役が見事な舞いを…

手打鉦を打ち続ける幼児の姿に感動

 

「塵輪」は異国から攻め入った鬼を退治する話

 

 島根県大田市温泉津(ゆのつ)町にある龍御前(たつのおまえ)神社の鳥居をくぐり、石段を登ると長机が設えられ、1枚2千円のチケットが販売されていた。切符を買い、靴を脱いで本殿に上がると、小さな舞台とその目の前に50人分ほどの客席が用意されていた。

 

片足立ちで見得を切る白鬼

 

 この日の出し物は3題。「塵輪(じんりん)」は異国から倭の国に攻め込んできた塵輪と呼ばれる翼をもった赤鬼、白鬼を帯中津日子(たらしなかつひこ)時代の第14代仲哀天皇が弓と矢を武器に退治をするという物語。

 

舞台狭しと激闘が展開される

 

 「恵比寿」は恵比寿役の独り舞台で、ひょうきんな舞を舞いながら釣り竿で鯛を釣り上げるというめでたさを象徴した演目だ。

 

 最後は神楽では敵役の主役ともいえるヤマタノオロチを須佐之男命(すさのおのみこと)が退治をする大活劇である「大蛇」。これら3題を10人余りのメンバーで囃子方や、複数の役どころを掛け持ちしながら演じ切る。

 

 客席は満席。3組ほどの外国人や、福島県から神楽を観に駆けつけたという夫婦客ら、老若男女が詰めかけていて、物静かな温泉街の風情が一変した感じだ。

 

囃子方には3~4歳の幼児の姿も

 

 まず囃子方が舞台に登場して後方の一段高い座敷に陣取った時点で、客席から和やかな歓声が上がった。大太鼓、小太鼓、横笛を受け持つ大人に混じって、手拍子と呼ばれる小さなシンバルのような手打鉦を担うのは3人の子供たち。特に一番幼い3~4歳の幼児のはかま姿には、開演前から大きな拍手が沸いた。

 

「恵比寿」を独演するのは小学6年生

 

 仰天したのは「恵比寿」。おなじみのえびす顔の面を被った恵比寿さんが登場してくると、その小柄さに目を引かれた。衣装からのぞく手もまた小さい。ところが演技は達者なもので、鯛釣りをしながらの客席とのアドリブのやりとりなど、なかなかの老練ささえ感じさせる。

 

 演目が終わったとき、マイクでの解説が入り、演じていたのは小学6年生の男の子だったと知らされて、観客はビックリ仰天、拍手喝采。手打鉦を打っていた幼児といい、地域の伝統芸能を支える小さな才能のなんと頼もしいことか。