生肝に皮炙り…専門店ならではの珍味も

鍋の白身は「15秒」の絶対ルールを守る

 

希少な生肝(左)と卵の煮付け

 

 梅雨入り間近のこの時期になると、訪ねずにはいられない店が神戸・新開地にある。

 「ととや」という料理屋で、夏の看板はハモのフルコース、冬になるとフグにスイッチする。こちらの店の本業は「三笠屋」という文政2年(1819年)創業の老舗の蒲鉾屋。ハモのすり身で作る蒲鉾は、大きなハモ1尾から2枚ほどしか作れないというぜいたくな逸品だ。

 

白身の湯引き

 

 というわけでハモの仕入れに関しては右に出るものはいない。その新鮮なハモをお腹いっぱい食べ尽くせる「ととや」に、夏の終わりまでに何度か通うことになるのがここ10年の定番となった。

 

この日はほほ肉の天ぷらの代わりに白身天

 

 コースはハモの子(卵巣)の煮付けを皮切りに、生肝、湯引き、ハモ鮨、天ぷら、蒲焼き風の皮炙りと続く。そして真打ちのハモすきの登場となる。

 

 昔から夏のハモは大好きであちこちで口にしてきたが、生肝、ほほ肉の天ぷら、皮の蒲焼きというメニューは後にも先にも「ととや」でしかお目にかかったことがない。

 

 この日は5人での宴席だったが、残念ながらほほ肉の天ぷらは量が揃わず、白身を使ったハモ天がその代わりを務めた。

 

蒲焼き風の皮炙り

 

 ハモすきの出番になると、鍋と一緒に板前の若主人がテーブルにやって来るのも定番。おいしくいただくための作法を事細かく説明してくれる。

 

 大原則はダシを沸騰させないこと。「それだけで味が台無しになりますから」と言いながら、カセットコンロのツマミを中火のやや弱めの位置にセットし「これは最後まで触らないでください」と言い渡される。

 

白身は15秒、蒲鉾用のすり身はじっくり

 

 次は丁寧に骨切りされたハモの切り身の火の通し方。「15秒であげてください。それ以上は絶対ダメです」と口調がきつい。それでも気になるのか、しばらくは鍋から離れず、鍋に投じた切り身をきっかり15秒で引き上げ、それぞれの器に取り分けてくれるこだわりようだ。

 

 見ていると細かく骨切りされた白身の中の方は、まだ半生の色合いを残している状態で取り出している。ただ、余熱のおかげか、口に入れるときにはちょうどいい具合に火が通って、ホクホクと絶妙の歯ごたえとなる。絶品である。

 

 今年の挨拶がわりの宴席を5月末に終え、6月中旬には2度目の予約を入れてある。今年の夏も暑くなるそうで、秋までにさて、三度、四度と足を運ぶことになるのは間違いなさそうだ。