ビールにつまみでリラックス鑑賞

おらが村の神楽団の見事なレベルに感服

 

父・平将門の復讐に燃える五月姫

 

 安芸高田市の神楽ドームを訪ねたのは5月26(日)のこと。この日は「ひろしまね神楽デー」と銘打たれ、安芸高田以外の地域に拠点を置く神楽団を招いて年に7回行われるイベントに当たっていて、舞台に上がるのは東隣の町、三次市の茂田(もだ)神楽団だった。

 

 中国地方は国内でも特に神楽の盛んな地域で、代表的なものとしては岡山県を中心とした「備中神楽」、島根県を中心とした「出雲神楽」、「石見神楽」などが挙げられる。これらのおおもとのルーツは出雲神楽にあると言われ、それが人や物資の流れに乗って備中、石見に伝わり、それぞれ独自の発展を遂げたとされている。

 

 安芸高田神楽の場合は、出雲から石見を通ってもたらされたもので、伝承の経過の中で微妙に形を変え、独自の特徴を備えながら現在のスタイルになった。

 

 開場から開演までの約1時間半、場内にはのどかなムードが漂う。たまたま隣に座った男性が、岡山から車でやって来たテレビ業界の人ということがわかって、ビールを飲みながら話が弾んだ。

 

 おかげで退屈をどうやり過ごそうかという心配も杞憂に終わり、いよいよ演目の解説が始まった。この日の演目は「滝夜叉姫」と「葛城山」。幕間が1時間半もあるため、時間の都合で残念ながら最初の演目「滝夜叉姫」しか鑑賞できない。

 

妖術を身につけ朝廷に対抗する

 

 「滝夜叉姫」のストーリーは、平将門の娘である五月姫が、父の仇を打つべく妖術を身につけ、父親の生誕の地である下総国猿島を拠点に朝廷に立ち向かおうとしていた。それを成敗するために陰陽師が遣わされ、激しい戦いの末に五月姫が成敗されるという内容。五月姫が二段階の早変わりで鬼の形相となり、妖術を駆使して暴れる場面がハイライトだ。

 

最前列で舞台の役者さんを見上げると、激しい動きに顔から首筋にかけて汗が流れるほどの重労働であることがよく分かる。合わせて、金糸をふんだんに使った数々の衣装の出来も見事なものだ。

 

夜叉姫となり征伐の勢力と戦うが…

 

 お囃子の呼吸、セリフの迫力、どれをとっても仕事や日常生活の合間を縫っての稽古で磨き上げたとは思えないクオリティだった。そのエネルギーとなっているものこそ、自ら暮らす地域に伝承される伝統芸能に対する愛情であり、情熱であるに違いない。

 

 安芸高田だけでも22の神楽団が活動しており、島根県の石見地方ともなると110もの団体が存在するのだという。そしてこの山の中の広大な神楽ドームでの公演はほぼ月に15日も。降って湧いたような安芸高田神楽ドーム体験は深い思い出を残して終わった。