身内びいきながらいいお店

父親秘伝の味がそこここに

 

  

ぶりカマの煮付け(左)と鶏肉のたたき

 

 広島新天地の日本酒バー「FLAT」を堪能し、翌日は新幹線で岡山まで戻った。そこで伯備線に乗り換えて30分余り、備中高梁駅に降り立った。

 

 備中高梁駅のある高梁市は県の中西部に位置する人口26000人ほどの小さな町。備中松山藩の城下町であり、街を見下ろす臥牛山の山頂に立つ備中松山城は、近年雲海に浮かぶ天守閣の様子が人気を呼んでいる。私にとっては、高校時代の3年間を寄宿舎暮らしで過ごした第二の故郷のような町だ。

 

 今回、高梁を訪ねた目的は、弟が市内で営む小さな居酒屋「炭火串焼きともつ鍋の店 安五郎商店」を久しぶりに訪ねることだった。開店したのがコロナ禍が収まる前の4年ほど前。聞けば地元でもそれなりに評判を呼ぶ店に成長しているようだ。

 

 あちこちからこだわりの食材を取り寄せ、日本酒も全国の銘酒をそれなりに揃えている。それ以上に肉親の立場でこの店の味に懐かしさを覚えるのは、かつて食通だった父親が趣味で自ら手をかけ食卓を飾っていたメニューや、秘伝の調味料などを引き継いで提供していること。口にする度、子供の頃から慣れ親しんだ父親の味を何より舌が思い出す。

 

 中でも「安五郎商店」の料理の味付けに欠かせないのが父親のレシピを再現して作り続けている醤油ダレだ。子供の頃の記憶では、直径50㌢ほどの大きな鍋に醤油の一升瓶をゴボゴボと空け、そこに皮をむいた大ざる一杯ニンニクを投入してあとはひたすら煮込んでいた。

  

牛コウネ焼き(左)と人参のしりしり風

 

 今回も「これ、例のタレで味付けしてあるよ」と言って出されたのが、広島の焼肉屋の定番、「コウネ」という牛の前足の間の人間で言うと方の部分あたる部位の肉を炙り、大根おろしと刻みネギを加えて秘伝のタレで味付けした一品。店の一番人気だというぶりカマの煮付けもそれが納得できる味付けになっていた。

 

   

地元岡山の神心(左)と長野の「斬九郎」

 

 日本酒の方は地元岡山の「神心」、長野の「斬九郎」までは覚えているが、その後飲んだ3~4杯については、スマホにメモを残すことも、写真に撮ることも忘れてしまった。

 

 体と商売の無事を確認して店を出たのが午後9時前。歩いて7~8分の備中高梁駅に戻り、最終の特急「やくも」に乗って岡山経由、新神戸を目指した。