15年の延命治療を終えて

愛しの奥歯と別れの時が…

 

 「抜きましょう!」

 レントゲン写真を眺めながら、腕組みをしてしばしの沈黙。その後に伝えられたのは最後通告だった。

 このブログ「鉄爺のアキレス腱!?」で、右足のヒザ、太もも付け根の関節に生じた違和感に対する不安を告白した。医者知らずの人生にあって、小学生の頃からずっと絶えることなくお世話になってきたのが歯医者さんだった。

成人してから、歯列からはみ出し、本来の役割をまったく果たしていなかった歯を1本抜歯しているため、現在残っている永久歯は27本。そのうち8割には虫歯の治療などの痕跡が残っている。

特に大きな問題を抱えているのが左下一番奥の大臼歯。臼歯とは名ばかりで元の歯の形は、いまや歯茎からほとんど顔をのぞかせないほどに削られ、歯神経は取り除かれ、大きな金属をはめ込んでかろうじて役に立っている。

15年ほど前のこと。かかりつけだった自宅近くの歯科医にその歯の不具合を伝えたところ、「もうこれは抜くしかありませんね」と言われた。

当時はまだ50歳過ぎ。先の長さを考えると歯を抜くことの不安も大きかった。知り合いに紹介され、セカンドオピニオンを求めたのが現在のかかりつけである歯科医だった。

そのときも診察を終えてしばし「う~ん」と考えこまれた挙句、「わかりました。なんとか残せるよう、最善を尽くしてみましょう」とキッパリ。心強かった。

その先生はたまたま同い年だったのに加え、当時神戸に本拠のあったプロ野球オリックス、神戸製鋼ラグビー部のチームドクターを務めるスポーツ好き、さらには若かりし頃自らも舞台に立ったほどの演劇好き、さらにさらに大のお酒好き…と見事に好みがシンクロしたこともあって、友人としてのつきあいも始まり、並行していったんは最後通告を受けた奥歯の延命治療が始まった。

以来、15年、何度か手を加え直しながら、その歯はここまで立派に務めを果たしてきてくれた。その大切な歯に詰めた大きな金属がごっそり外れたのが数日前。すぐに外れた金属を持参して診察台に横になった。接着剤で再装着して終わり程度の治療で済むかと思っていたのだが、2種類のレントゲン撮影、念入りな歯の様子のチェックの後、冒頭のひとことが伝えられた。

「この歯のおかげでふたり知り合えたことを思うと、私も残念でしかたない。でも今後のリスクを考えると、最善の方法と断じざるを得ません」

 というわけで5月中旬に抜歯することになった。前述の歯列からはみ出した歯を抜いた時とは重苦しさが違う。27本が26本になるだけ、ではとても済まされない無念さ、不安。鉄爺は心で泣いている。