仁淀ブルーで育まれた逸品

イチローも通った地方の名店

 

高知・佐川の「大正軒」うな重並

 

 どこかへ出かける度に必ず足を運ぶウナギの店。中でも神戸からは遠方にあるにもかかわらず、このところの大のお気に入りで訪店回数が目立つのは高知県高岡郡佐川町の「大正軒」と、鹿児島市の繁華街天文館にある「うなぎの末よし」だ。

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 「大正軒」は10年ほど前に神戸の友人が「高知でおいしいウナギ屋に行って来た」と教えてくれ、高知に行くついでに足を伸ばしたのがきっかけだった。

 「大正軒」最寄りの佐川駅までは、JR土讃線なら高知駅から西へ約1時間。車なら高知市内のはりまや橋から40分ほどかかる。仁淀ブルーで有名な清流、仁淀川で養殖したウナギを使っている。利用には予約が必須。しかも予約の時点でメニューを説明され、その場で事前注文しておかなければならない。

 

「大正軒」のうなぎは仁淀川で育てられる

 

 初めて訪ねたときは土讃線を使ったのだが、佐川駅を降りるときに、駅員さんから「大正軒ですか?予約してありますか?予約なしでやって来て、肩を落としてUターンするお客さんもしょっちゅうですよ」と声を掛けられた。

 自分にとってこの佐川という町の入り口は「大正軒」だったわけだが、実際に行ってみるとすぐ近くに高知の人気酒「司牡丹」の本社と酒蔵があるのを知って驚いた。小さな町の中心地、面積でいうと何分の一を占めているのだろうか、と目を見張るほどの大きさの白壁の酒蔵が広がっている。

 もうひとつ、特に昨年はHKの連続テレビ小説「らんまん」で人気を博した植物学者、牧野富太郎の生誕の地がこの佐川町(当時佐川村)。彼の生家は「岸屋」という造り酒屋だったが、その生家は現在も牧野富太郎ふるさと館として残っているし、街を見下ろす高台には牧野公園という植物園が造られている。

 「大正軒」は司牡丹の酒蔵からは目と鼻の先。押し寄せる来客のための大きな駐車場がその人気ぶりを物語る。小さな玄関を入ると、目に飛び込んで来るのがオリックス・ブルーウェーブ時代のイチローの写真パネル。高知がオリックスのキャンプ地だった時代もあり、よく店を訪れていたそうだ。

 話は横道にそれるが、数年前に神戸新聞社がホスト役になって開催した全国新聞大会のゲスト講演をイチローに依頼したことがある。控室で食べてもらう昼食について、大会の参加者と同じものでよいか確認すると、イチローは「『青葉』のうなぎでお願いします」と元町にある神戸一の有名店の弁当をオーダーした。「大正軒」びいきの話といい、どうやらウナギが大好物だったようだ。

 玄関を上がると個室に案内される。オーダーは予約と同時に済ませてあるので、黙っていても注文のウナギが運ばれてくる。特徴はウナギの身の厚さ。たとえばウナギが2段重ねになったうな重「上」でも4000円ほどだからいまどきお安いもの。

 食べ終わった後、古い屋敷を利用したカフェなど、歴史の町佐川の町ブラをデザートにするのも毎度の楽しみだ。