経年劣化と修復の戦い

技術と工夫に表裏はない

 

見る影もなくはげ落ちた豊臣秀吉の人物画

 

 大阪西成区の飛田新地にある元遊郭を利用した料亭「鯛よし百番」には、現在も遊郭当時の部屋がそのまま残され、料亭の客に利用されている。

 当時、男女が時間を過ごした個室には、様々な工夫が凝らされている。日光東照宮、東海道五十三次、大井川の渡し船、忠臣蔵…などなど、国内の名所が気の利いた装飾、小道具によって演出されており、部屋で過ごす時間はその世界に浸ることができるようになっている。

 ただ残念なのは歳月の経過による劣化があちこちをむしばみつつあるということだ。

廊下の壁に描かれた豊臣秀吉の画などは、客が面白がって触るため、絵の具がはげて誰が誰だかわからなくなってしまっている。

 

クラウドファンディングで修復なった襖絵

 

 その中にひとつ、鮮やかな襖絵の描かれている「紫苑殿」という部屋があった。

2021年、建物の保存修復のためのプロジェクトが地元有志によって立ち上げられ、クラウドファウンディングが実施された。そこで集まった基金をベースに、修復が実施されたのがこの「紫苑殿」の襖絵だった。主に宴会で利用されていたこの部屋の襖は、座った客が襖に寄りかかるために特に傷みがひどかったのだという。専門の技師が京都に通い、実際の襖絵などを細かく観察しながら原画に忠実に復元した。襖一枚の復元にかかった費用は100万円。クラウドファンディングがなければとても手をつけられないところだった。

他にも頭の痛いことがある。それは心無い客による盗難の被害だ。家具のあちこちに飾られた金属の細工品をこっそり外して持ち帰るという行為が跡を絶たない。

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 大正末期から昭和にかけて国内有数の遊郭として栄えたエリアのランドマークだった建物に刻まれた歴史は複雑だ。しかし、そこに凝らされた時代の香りをいまに伝える数々の技術や工夫に罪はない。保存修復プロジェクトでひと息ついたとはいえ、この先、この建物がいつまで生きながらえるのか、残念ながら保証できるものは何もない。