神戸公演は4月19日から

「泥人魚」を湊川公園で

 

劇団唐組の昨年の神戸公演前日、紅テント設営の様子

 

 ちょうど一年前の2023年4月29日、唐十郎率いる劇団唐組の公演が神戸市兵庫区の湊川公園に設営された紅テントであり、胸躍らせながら観に出かけた。

 演目は「透明人間」。初めて体験するテント演劇の世界は刺激に満ちていて、終わった後、一緒に出掛けた演劇に造詣の深い友人と酒を飲まずにはいられない気分になった。

 その劇団唐組公演が、今年も神戸にやって来る。4月19日~21日の3日間。会場は昨年と同じ湊川公園に設けられた紅テント。今年の演目は「泥人魚」という作品だ。

 何を置いてもまたあの異空間に浸りたい、という願望の一方で、それを邪魔する極めて現実的な問題がある。

 

       昨年の公演当日は土砂降りの雨になった             

 

 昨年のその日はあいにくの土砂降りだった。傘を差した開場待ちの人だかりがあちこちにできている。足元は水たまりだらけで足を運ぶのにも気を遣うような状態だった。

 入場が始まり、友人が入手してくれていた整理券のおかげで先頭に近い順番でテントに入ることができた。初めて目にする紅テントの中は、床に薄い板張りの座敷のようなものが作られているだけ。決められた座席などはない。

 中に入った順に、靴を脱ぎ、脱いだ靴とびしょ濡れの傘を持って板の上に上がり、舞台に近い前の方から順番に座っていく。その時、紅テント観劇の経験豊富な友人に袖を引かれた。「通路脇の場所に縦に並んで座りますよ。そうすれば通路を使って少しは楽な格好ができますから」言われるがまま、最前列に詰めるのはやめて、通路脇の場所に腰を下ろした。

 後から後から人が入って来て、板張りの座敷はみるみる人で埋まった。もちろん、私の通路と反対側の隣には見知らぬ人が体育座りで腰を下ろしていた。

 すると、場内の整理をしていた劇団のスタッフが大声を上げた。

 「みなさん、まだ外に50人の方が入れずに待っておられます。私が声をかけますから、それに合わせてお尻を少しだけ前に動かしてください。行きますよ、せえ~の」

 冗談かと思ったが、座っている人は律儀にお尻を動かして前に詰めていく。

 さらにしばし。「すみませ~ん。あと15人おられます。もう一度ご協力ください。せえ~の」。かくして紅テントには300人ほどの熱心なファンが腰を下ろし、無事舞台が始まったのだった。

 上演中、通路脇の席というのがどれだけ役に立ったことか。身動きもままならぬ体育座りでの2時間半ばかり。誰もいない通路側に体を向けて少し足を伸ばす姿勢をとることができた。それでも芝居が終わって腰を上げる段になると、下半身の関節がカチンコチンに凝り固まっていて体を動かすのにひと苦労した。

 客席は見たところ平均年齢60歳前後。みなさん、お互い支え合いながらやっとの思いで立ち上がっている。これも紅テントの楽しみ方のひとつなのだろうか。

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 あれから一年、2月末に「鉄爺のアキレス腱!?」と題してこのブログで告白したように、この2カ月ばかり、右ひざと太もも付け根の関節の不調に悩まされている。一時よりはましになってはいるが、板張りの上に座って身動きもできない2時間半に果たして耐えることができるかといえば、とても自信がない。

 行きたい、観たい、浸りたい。その一方でやっぱり怖い。悩みの日が続く。