筋違いの使い勝手要求
揺れる心にブレーキ!?
現在の愛車のコックピット
試乗の間に愛車の状態を細かくチェックした別のスタッフから、見積額の見直しは必要ありません、と伝えられた。
合わせて試乗したばかりの車の詳細な見積書も出来上がっていた。本体からの値引きはまだ空欄。年度決算が迫る2月、3月はこの本体値引きが大きくなるのは業界の常識だ。
2枚の紙を見比べながら頭の中で数字を弾いてみる。予算の枠を十分に余しての買い替えができそうだ。
この流れだとその場で「OK」の返事を出してしまいそうだったので、「もうちょっと細かいところを確認させて」と言って試乗車のところに戻った。
ほぼ2人乗りの車内、特に後部座席をチェックする。大人がふたりはとても座れない。天井の低さ、足元の狭さ、シートの横幅のなさ…これは緊急用、あるいは荷物置きと割り切る必要がありそうだった。
ふと思い立って自分の車に戻り、トランクからゴルフバッグを出して試乗車の横に持って行った。トランクを開けてみるがそこに収めるのが無理なことはひと目見ただけでわかった。
「ゴルフバッグはこうすれば2本積めますよ」。担当が後部座席の背もたれを前に倒してみせた。するとトランクと車内がひと続きになりバッグを縦向けに収納することができる。ただしそれによって後部座席は存在しなくなることもわかった。
その状態で運転席に戻ってみると、シートの背後一面が荷室になり、ゴルフバッグが背中のすぐ後ろに載せられている感じだ。
自分にブレーキをかける意味もあって、担当に使い勝手での難くせをつける。
「これ、荷物が気になるね」
「オプションですが、荷物を覆うカバーもセッティングできます」
「ということは後部座席は畳んだままで、ないも同然。孫を乗せる時にはバッグを外に持ち出さないとダメということ?」
言っている内に自分でも恥ずかしくなってきた。
スポーツカーに乗りに来て、荷物のこととか、後部座席のこととか、使い勝手のこととかばかり。その不便を凌いでなお際立つ運転の楽しさを求めに来ているはずなのに…。
そんなわけでその日は「脈なし」と判断されてしまったかもしれない。
しかし、時間が経っても久しぶりに味わったギアシフトを駆使しながら車を操る楽しさは体から消えない。
どうしたものか。
電話一本、「もうひと勉強させていただきます」のひとことがあれば事態が急展開することは自覚している。
かかってきてほしいような、かけてほしくないような。
スポーツカーが頭の中で行ったり来たりしている。
(この項おわり)