雪の田んぼ道で立ち往生

命からがらようやく秘湯へ

 

ナビ任せの挙句、雪の田舎道で進退窮まった(2023年12月撮)

 

 予約してあったレンタカー会社の青森空港支店は、空港のターミナルビルと隣り合わせで、屋根を利用すれば雨にも濡れずに移動できる場所にあった。

 5人でのグループ旅行なので3列シート、7人乗りのミニバンを予約してあった。雪国だけあって12月ともなればスタッドレスタイヤは標準装備、オプションで4WDタイプを申し込んだ。

ようやくルートに戻ったものの…

 

 早速車に乗り込み、カーナビに「酸ヶ湯温泉」を入力してスタートした。表示された所要時間は50分。宿のチェックイン時間まで余裕があるので、途中にある八甲田ロープウェーに立ち寄り、山上からの雪景色を楽しむ予定だった。

 空港から酸ヶ湯へは青森の市街地に背を向けて南へ向かい、山道を登って行く。カーナビの指示に従って除雪された片側一車線の道を走った。

 失敗の第一は、この時点でカーナビには雪情報はインプットされていないことを認識し、除雪の行き届いた県道レベルのコースを選択するべきだったのに、カーナビ任せで走り出してしまったことだった。

 それも後の祭り。ほどなくカーナビの右折指示に従って少し細い道に入ったあたりから、様子が一変した。まず道路の中央線がなくなった。除雪がされておらず、中央には先行した車の轍の分だけ雪の解けた部分があるが、それ以外は20㌢ほどの積雪がそのままで路肩もわからない。対向車が来たらお互いに二進も三進も行かなくなることは明白。車内に緊張感が漂った。

 それに構わずカーナビの誘導は前へ前へ、右へ左へと車を導く。道はどんどん狭くなり、とうとう舗装もしていない田んぼ道に入ることになってしまった。さらに進んだところで、ドライバー役の友人が「あかん、行き止まりや」と声を上げ、車を停めた。

 前を見ると、道の真ん中に雪が堤防のように積み上げられていて完全に行く手を塞いでいた。ナビは依然として直進を指示しているが、完全にいっぱい食わされた気になった。

 Uターンできる余地などどこにもない。選択できる道はただひとつ。除雪された県道まで、バックして戻るしかなかった。その距離500㍍。轍を頼りに、路肩を外れないように。

 一人が車外に出て、車の背後に回って「オーライ、オーライ」と声をかけながら誘導し、ドライバーはじりじりと歩くようなスピードで車を後退させた。

やっとの思いで酸ヶ湯温泉にたどり着いた

 

 一体どれだけ時間がかかったことか。ただ全員時計のことなど気にする余裕もなかった。 以後、ナビの狂ったように繰り返される指示には耳を塞いだ。それからも二度、三度と引き返しを余儀なくされるような道に迷い込んだ。人がいれば道を尋ねられるのだが、とにかく人っ子一人歩いていない。

 途方に暮れかけたとき、先方から軽自動車が走って来るのが目に入った。ひとりがドアを開けて道に飛び出し、その車の行く手を塞ぐような勢いで止めた。運転席には80代も半ばと思われる女性がひとり、こんな雪道を平気な顔でスイスイ運転している。

 「酸ヶ湯に行きたいんですが」と尋ねると、「そのまままっすぐ進みなさい。2㌔ほど行くと県道にぶつかるからその信号を右。しばらく行くと大きな交差点があってそこを右。酸ヶ湯の看板も出てるから」とあっさり。人間ナビの方がよほど心強い。

(この項続く)