ゴルフ場通いは路線バスで

妻の買い物は電動自転車で

 

 75歳を前に運転免許返上を決断したという岡山県人会の先輩の話に聞き入った。

 まず理由を尋ねたのだが、これというはっきりしたきっかけがあるわけではないのだという。奥さんの方が返上の話を持ち出し、それなら夫婦揃って免許を返して、車も手放そうか、ということになったそうだ。

 週に1回以上のペースで通うゴルフ場への足はどうするつもりなのかも気になるところだ。ちなみにその先輩の自宅は兵庫県川西市。会員権を持つゴルフ場も市内にあって、マイカーなら10分ほどの距離だと聞いたことがある。

ただ、大きなゴルフバッグを担いで歩ける距離ではないだろうし、タクシーでの往復となると足代も馬鹿にならない。

「コースの門の前に路線バスの停留所があってね。昔から電車やバスにゴルフバッグを担いで乗ることにまったく抵抗のない性分なので、バスで通うつもりだよ」

ケロリとしたものだった。

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その話を聞いて、思い出したのは東京で単身赴任生活を送った2年間のことだった。神戸新聞(デイリースポーツ)の社宅が千葉県松戸市にあり、そこに住んで山手線の大崎駅前にあった会社まで、1時間15分ほどかけて通っていた。

当時も仕事でのおつきあい、プライベートで月に一、二度はあちこちのゴルフ場に通ったが、たいていは電車だった。もちろんゴルフバッグを肩に担いで。休日のことだから、電車は空いていて気兼ねしたことはなかったし、車両の中には必ず数人のお仲間がいた。

目的の駅を降りると、ゴルフ場のクラブバス乗り場があり、複数のコースが共同で運行していた。乗客の行き先のコースはそれぞれ別々だが、ちゃんと順番にコースを回って送り届けてくれる。関西ではあまり見かけることのないシステムだったが、使い勝手のよさに感心したものだった。

神戸に帰って来てから、電車やバスでゴルフ場に行ったことは一度もない。

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次に気になったのは日常生活のこと。確認すると奥さんも日常的に車を運転しており、日々の食料品の買い出しにも車を使っているという。

「スーパーまで歩いて歩けない距離ではないんだけど、坂道が多くて、歩きはちょっとつらい。車を手放すことを想定して、電動自転車を買ったんだ。上り坂でもすいすい走れて楽なものらしいよ」

これまたケロリとしたものだ。

 どうやら迷ったり悩んだりすることもなく、ふたりでスッパリ返上を決断したらしい。

 その思い切りを頭の中で自分の生活に当てはめてみた。

神戸市西区にある自宅は地図に車で30分の距離の円を書けば、ゴルフコースが20カ所は入ってくるような場所にある。車で5分の場所にさえ3カ所。それでも公共交通機関を使ってのゴルフ場通いなどまったくの論外。免許を返上するときはおそらくゴルフから引退するときだろう。

 「神戸でのゴルフ、また誘ってよ。迎えに来いなんて絶対言わないから」

 その先輩から笑いながら肩を叩かれた。

 「どうやって来るんですか?」

 「近所の誰かに乗せて行ってもらうよ」

 泣く泣く免許を返上することになるその日まで、この先輩の真似はできそうにない。

(この項おわり)