新長田丸五市場の「今井やん」に浸る

100種の焼酎と、〆の即席ラーメン

 JR、神戸市営地下鉄の新長田駅から歩いて10分足らずのところに、昭和レトロ感横溢の丸五市場がある。昭和どころか、開設は1918年というから大正時代だ。

 毎月一度、神戸市内で飲み会を開いている4人グループの2月例会で、この丸五市場の中にある焼酎居酒屋「今井やん」を訪れた。焼酎の品揃えにはご主人の強いこだわりがあって、マニアックな銘柄を中心に100種類ほどが揃えてある。

 しばらくご無沙汰していて、足を運ぶのは3~4年ぶりになる。ただ、変わったことと言えばご主人がヒゲを蓄えたことぐらい。居心地のいい空間は以前のままだ。その日は自分たちのグループに加え、10人ほどの飲み会の予約も入っていて、店内は満席のにぎわいだった。

 ビールはサッポロラガーのみ。焼酎は同じ銘柄でも20度、25度、30度、35度…とアルコール度数の違うものの品揃えも豊富で、好みを伝えればお薦めの銘柄、度数を選んでくれる。

 最初に定番の甑島の芋焼酎「六代目百合」をオーダーしたのだが、残念ながら品切れ。「ではお任せで芋臭いやつを何か。もちろんロックで」と頼んで、出て来たのは南九州市の「八幡」という芋焼酎だった。口をつけるとさすが注文どおりの癖の強さだ。

 次は目先を変えて黒糖焼酎を頼んだ。芋ほどの品揃えはないが、選んでくれたのは徳之島の「長雲(ながくも)」という銘柄。度数は30度ある。最近、芋に比べると柔らかみのある黒糖の味わいを気に入っているのだが、さすがにこの度数だとずしんと応えるパンチがある。

 「そういえばマスター、ついこの間沖縄で面白い泡盛飲んできたよ」と、このブログの「沖縄グルメ旅~その7」でも紹介した国際通り屋台村での話を振ってみた。

 「え、どんな酒ですか?」

 「与那国島で造っている…」

 「あ~、『どなん』ですね」

 「いや、『どなん』と同じように瓶をクバの葉で巻いてあったけど、別の銘柄。花酒といって度数が60度もある…」

 「それなら『与那国』ですね」

 すらすらとドンピシャの答え、プロの焼酎マニアだけのことはある。

 調子が出て来て、氷入りのグラスに並々と注いでくれる焼酎ロックを芋2杯、黒糖2杯、泡盛1杯の合計5杯、グラスごとの風味、香りの違いを満喫しながら楽しんだ。

 その日は鶏の七輪焼きを事前に頼んであって、食べる方も結構な量をこなしていたのだが、ふとメニューを見ると、〆の一品に「出前一丁」とある。350円。4人揃って、「久しぶりに〆のラーメンを食べよう」と酔いも手伝って盛り上がった。

するとご主人が「メニューに書いてないけど、きょうは『味のマルタイ』も買ってありますよ」と。それならば、と博多発の人気即席ラーメンをオーダーし、背徳の一杯を平らげた。

店を出る際、ご主人が丁寧に扉の外まで見送りに来てくれた。

「久しぶりやったけど、いつもと変わらず大満足、ごちそうさまでした」と頭を下げたところへ思わぬひとことが返って来た。

「焼酎の飲み方、ちょっとおとなしくなったんちゃう。年のせい?」