グルメ旅と銘打って、昼夜楽しみ尽くした沖縄の食べ物、飲み物。最後はテーマを少し離れて、今回の旅で目にした光景の中で、深く心に刻まれた2題についてご紹介を。

 食べる話ばかり書いてはいたが、2泊3日の間、寸暇を惜しんであちこちのスポットを楽しんで回った。自分自身、何度目かの訪問になる場所もあり、初めての場所もあった。

 そんな中で訪ねたのは、火災による正殿焼失後二度目となる首里城だった。前回はまだ火災の爪痕が生々しく、それこそ空気が焦げ臭く感じられるようなタイミングだった。観光客の受け入れを再開して間もない頃。復興への作業もようやく手をつけられたという状態だった。

 今回は違った。正殿のあった場所には長方形の体育館のような大きな建物が建てられており、その壁面にはかつての正殿の姿が朱も鮮やかにペイントされている。その中で正殿の復元作業が進められていることがひと目でわかった。

中に入ると観覧エリアはエレベーター付きの3階構造で、それぞれのフロアからガラス越しに違った角度で作業の現状が確認できる。

目の前に現れた新しい正殿の巨大な屋根の威容にはただただ圧倒された。すでに屋根の骨組みはできあがっていて、使われた材木の大きさ、細かな部分まで神経の配られた美しいバランスに感嘆するしかない。

作業はこの後、屋根の装飾などに進んで行き、完成までもう2年を切るところまで来ているという。

火事で失われたものはいくら惜しんでも惜しみ足りないが、日本中の知恵と技術を結集して復元される正殿には、それはそれでまた新しい価値が見い出せるのではないか。完成のあかつきには何をさておいても見に来なくては。大きな土産をもらった気になれた。

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 反対にレンタカーの中を重苦しい沈黙が包み込んだ光景があった。「きしもと食堂」を目指して国道449号を名護から本部へ走っていると、片側2車線の道路を行き来する大型ダンプカーの数の多さに目を奪われる。赤信号の交差点では、10台を超えるダンプカーがずらっと連なって信号が変わるのを待っている。信号の度に同じ光景が繰り返された。

何の目的で?その答えは少し走るとすぐにわかった。土砂の積み下ろし専用の桟橋が視界に入って来た。桟橋にはひっきりなしにダンプが出入りをしている。「辺野古か…」誰ともなくつぶやいた。

 辺野古基地建設のための埋め立て工事に必要な土砂の量は2600万㎥という試算がある。10㌧トラックにしてなんと500万台以上という想像を絶する規模の工事だ。沖縄県内の山を切り崩しただけで調達できるわけはなく、国内のあちこちから土砂が運び込まれている。

 辺野古に土砂を運び、埋め立ての海域に投下する作業の大半は、名護市にあるこの桟橋からの船が担っている。

 それにしても…。ニュースで見聞きする状況とは別次元の世界が現実として車の窓外に広がっていた。桟橋の入口には制服にヘルメット姿の係員が立ち、ダンプを誘導している。そのすぐ横には高齢の女性がひとり、辺野古基地反対のアピールがしたためられた画用紙ほどの大きさのパネルを体の前に掲げ、ただ立っていた。決して作業の邪魔をしようとはしないが、ぎりぎりの場所で危険を避けながら、ダンプの運転席に向かって黙ってパネルを示している。

 誘導係の男性はわずか1㍍ほどの距離にいるその女性を存在しないものかのように無視して誘導灯を振り続ける。

 残酷な分断を突きつけられた部外者は、卑怯にもただ黙りこくることしかできない。(この項おわり)