「その5」で紹介した宜野座球場での梅ちゃん空振りの後、ランチでもと向かったのが本部(もとぶ)町だった。沖縄本島の地図を見ると、縦に細長い島の西側に大きなこぶのように突き出した本部半島が目に入る。美ら海水族館や瀬底ビーチなどの観光スポットで有名だが、沖縄そばを提供する70軒以上の店がひしめきあう本部そば街道も壮観。その中で創業1908年(明治38年)という超老舗の「きしもと食堂(本店)」に白羽の矢を立て、宜野座を後にした。

 道中、そば街道にさしかかると大小まちまちの店が道路の両側に次々と姿を現す。海沿いの県道を山側に曲がってすぐ、商店街の一角に古色蒼然とした平屋建ての小さな店が現れた。

 看板には「手打ちそば」とあり、ランチ時とあって10人を超える行列ができていた。その最後尾に並んでみて、先着組の様子を見るともなく見ていて驚いた。なんと、前に並んでいる10人ばかりの客は、小さな子供を連れた家族を含め、すべて外国人なのだ。

 日本人の観光客でもなかなか足を運ぼうという足場の場所ではないにもかかわらず、一体何を求めてやって来たのか。外国人観光客に人気の日本のラーメンの親戚だから?

 30分ほど待って決して広いとはいえない店内に案内されてみると、やはり奥の座敷も隣のテーブルもアジア系の外国人ばかり。狭いテーブルに肩を寄せ合うように並んで座っている。

メニューはそば(大と小)、ジューシー(炊き込みご飯)しかない。移動する車の中で調べてみると「きしもと食堂」のそばの特徴は、小麦粉を練るのに一般的なかん水ではなく、木灰を使っている点がポイントだという。山に自生する亜熱帯の木を切り出し、それを燃やしてできた灰に水を注ぐ。時間が経って灰が沈殿したその上澄みを使って小麦粉を練るのだ。これによって、かん水を使ったものより腰のある麺が打ち上がる。

 運ばれてきた太めの平麺をひと口啜ってみると、その歯応えに驚く。だしもまた個性的。たとえば前日に食べた「屋宜家」のそばに比べると、カツオの存在感が数段強い。見た目も含めて、野性味を強く感じさせる逸品だった。

 隣のテーブル…いや、ひとつのテーブルの中央に箸入れや調味料類を並べて仕切り、右と左に別のグループを座らせる。隣に座っているのは東南アジア系の若いカップルだった。様子をうかがうと箸を使いながら独特の風味の手打ちそばをおいしそうに口に運んでいる。

 沖縄本島のそばは島の中南部と北部で似て非なる個性があることがよくわかった。この他にも宮古そば、八重山そばなど、エリアごとにそばの形、太さ、ダシの風味など特徴を競う。それより前に、この本部そば街道の70数軒でさえ、一軒々々のこだわり、味の違いがあるのだろう。

 二泊三日の旅ではあまりに短過ぎた。

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 沖縄グルメ旅はこれをもってひとまず一段落。今回、グルメだけではなく慌ただしく島を駆け回った中で、強烈に目に焼き付いた光景がふたつある。グルメを離れ、あすはその話をして沖縄編を締めくくりたい。