那覇市内の一大観光スポット、国際通りから一筋入ったエリアに屋台村がオープンしたのは2015年6月のこと。「グランド・オリオン」という古い映画館が2002年に閉館したその跡地を利用して開発された。

 20軒余りの店が軒を並べ、通路の両脇にはテーブルと椅子がぎっしり並べられて、店内でも店外のテーブルでも飲食を楽しめるようになっている。レイアウトは少し違うが、同じような施設で思い出すのは高知のひろめ市場だ。朝、昼、夜、時間を問わずグラスを傾ける人でにぎわう。ひろめ市場の場合は、そうした酒の飲み方を許容する地元の風土、文化がある。国際通り屋台村に一歩、足を踏み入れた瞬間に感じるのは高知と共通する南国の空気感だ。

 屋台村ではたいていの店が「せんべろ」を用意している。千円でべろべろに酔えまっせ、というセットメニュー。店によるが生ビール杯につまみ、あるいはサワー系3杯につまみ…たいていの人が座るとまずこれをオーダーしている。

                 

 今回は那覇での夜を過ごした2日間とも、二次会と称してこの屋台村に繰り出した。どこの店も、地元の若者、観光の老若男女が入り混じってほとんど満杯状態だが、そこは商売。「4人さん、座れますよ」と向こうからちゃんと空いている席へ案内してくれる。

 ある店の店内のカウンターに座ると、まずは沖縄ではおなじみのハブ酒の大きなガラス瓶が目についた。一次会でビールと泡盛をそれなりに飲んだ後だけに、いまさら「まずはビール!」でもない。

 「それを一杯、4人でシェアさせて」と小さなグラスにハブ酒を少しずつ注ぎ分けてもらった。これは開宴の乾杯のようなもの。次に目をつけたのは、おなじみの泡盛らしくない一升瓶だった。

 「これは何?」と尋ねると「沖縄で造られている唯一の日本酒です」と言われてビックリ。これだけ足を運んでいながら、初めてお目にかかる沖縄の地酒だ。おそらく同じ質問を繰り返されるに違いない。若い店主だったが、スラスラとその「黎明」というブランドの解説を聞かせてくれた。

 酒造会社はうるま市にある「泰石酒造」という酒蔵であること。初めて売り出されたのはもう50年以上も昔であること。原料となる酒米は九州から買い入れていること…等々。亜熱帯の沖縄の気候は日本酒醸造に適しているとは言えないが、二代にわたる工夫で味を磨き続けている。お店にあった一升瓶は本醸造だったが、常温でオーダーし、グラスを置いた皿に注ぎこぼしてもらった。初体験の沖縄で味わう日本酒。気候に負けないようにということなのか、しっかりした味わいの酒だ。

 次もカウンターで目についた一升瓶から。植物の葉(クバ)を乾燥させたものでボトルを包んだいでたちが際立っている。アルコール度数はなんと60度。日本最西端の島、与那国島だけで作られる花酒という泡盛らしい。

 そんな貴重な酒を水で薄めるのがもったいなくて、ロックで注文すると、「大丈夫ですか?」と店主から確認された。氷を入れたグラスになみなみと注がれた透明なスピリッツをまたまた4個のグラスにちびちびと注ぎ分ける。

 口に入れた瞬間は、少し強めの古酒と変わらないような感じがしたが、いざ飲み下す段になると、60度がノドを強烈に刺激する。ただし、古酒の特徴で香りも味わいも気になるクセはない。

 すると店主が「これを一滴垂らして飲んでみてください。不思議とアルコールの強さが消えますから」とおちょこほどのグラスに黄色い液体を入れたものを差し出してくれた。

 正体は沖縄固有の柑橘類であるシークワーサーの生の果汁。搾りたてだという。だまされたつもりでタラリと各自がグラスに垂らし、再びグラスに口をつけてみると…あら不思議。先ほどの強烈な刺激がなくなっている。

 「へぇ~」とめいめい感心しながらグラスを傾けていると、「度数は変わりませんからね」と指導を受けた。