「沖縄グルメ旅~その1」で紹介した「ジャッキーステーキハウス」と比べると自分の中での歴史は半分以下だが、初めて発見してからのこの10年余りは「ジャッキー」と並んで沖縄といえばイコール…と言える存在が、本島南部の八重瀬町にある「屋宜(やぎ)家」という沖縄そばの名店だ。

 今回も当然、一も二もなく予定に組み込んだ。予約は4人以上なら受け付けてくれる。開店の11時に合わせて席を押さえた。

 平和祈念公園や玉泉洞といった定番のスポットから車で10分足らず。少し高台になった土地に広がるサトウキビ畑の中にポツンと位置する。レンタカーのナビに入力すればたいていは店の前まで連れて行ってくれるが、ナビの性能によるものなのか、たまに店からは少し離れた幹線道路のバス停で「目的地に近づきました」と案内を打ち切られることがある。

 そうなると店までの細い道のどこをどう曲がって行けばいいのか、途方に暮れて店にSOSの電話を入れなければならない。

 開店の15分ほど前に着いたが、道端の小さな駐車場にはすでに何台か車がとまっていた。                

 屋宜家の特徴のひとつは、店舗として使われている築70年の古民家が、国指定の登録有形文化財であること。門を入った正面に行く手を遮るように立つ魔除けの石壁、ヒンプン(屏風)、かつての家畜小屋、井戸、枯山水の庭などが念入りに手入れされて残されている。ヒンプンを回り込むようにして中に入ると、昔ながらの琉球様式のカーラヤー(瓦家)が佇む。琉球様式の民家には玄関がなく、広い縁側から靴を脱いで座敷に上がる。門を入った途端から、時間の流れから切り離された空間に踏み込んだような感覚にとらわれ、極上のランチタイムを過ごせるのだ。

 沖縄そばは小麦粉にかん水を入れて練り上げた麺と、豚骨とカツオ節でとったダシというのが定義だが、地域によって随分特徴が違う。屋宜家のそばは、地域的には那覇などと同じ中南部エリア風ということになるが、その中でも麺はあまり幅広ではなく、舌触りは滑らか、ダシも穏やかで上品な味わいだ。

 たいていの客はそばとジューシー(炊き込みご飯)のセットか、それに小鉢3品が付いたセットを頼む。そばは各種。この日は4人とも一番人気のアーサー(あおさのり)そばを選んだ。セットの3品はもずく酢とジーマーミー(地豆)豆腐、大根の漬物。人気のジューシーは昼過ぎには売り切れてしまうこともしばしばだという。

この日は予約していたのですんなり座敷に案内されたが、庭には10人ばかりの順番待ちの客が独特の空間での時間をのんびり楽しんでいる様子だ。

 ひとつ気になったことがある。数年前までは目にした記憶がないのだが、経年劣化で屋根が下がってきたのか、本来の柱とは別に、鉄製の支柱が数本、地面から斜めに屋根にあてがわれていた。

文化財ということで、手軽に修理をするわけにもいかないのだろうか。いずれにしても、琉球の文化に静かに浸ることができ、極上の沖縄そばを楽しめるこの空間は宝物。どうかいつまでも永らえてほしい。そう願いながら屋敷を出た。