「グルメ旅」を一服して、阪神タイガースの一軍キャンプ地である宜野座を訪ねた。もともとは宜野座村球場だが、ネーミングライツを募集し、現在の正式名称は「バイトするならエントリー宜野座スタジアム」となっている。

 足を運んだのは正確には1月22日。タイガースのキャンプインまではまだ10日あり、誰もいない施設だけを見学して帰る予定だった。同行のグループの中に熱烈な阪神ファンがふたりいて、必須の立ち寄りポイントとして早くから予定に組み込んであった。

 ところが出発の数日前に事態が一変した。そのふたりから息せき切るように連絡が入った。

 「宜野座に梅ちゃん、いますね!」

 梅ちゃんというのはタイガースの梅野捕手のこと。阪神ファンふたりの内のひとりが、なんと梅ちゃんイチ推しとあって、テンションは爆上がりだ。

 デイリースポーツを見ると、キャンプ前に選手が各自で行う自主トレの様子が伝えられていて、梅野選手は随分早くから他チームの選手を含む5~6人で沖縄入りし、宜野座球場の施設を借りて汗を流していた。                

 デイリースポーツでトラ番(阪神タイガース担当)をしていたのは35年以上も前の話。毎年、2月はキャンプ取材が定番だった、当時、タイガース一軍のキャンプ地は高知県安芸市。チームも取材するマスコミも日本旅館の和室で1カ月を過ごしていた。チームの場合は基本が三人部屋。同じポジションを守るベテラン、中堅、若手が組み合わされ、自分たちで布団の上げ下ろしをしながら寝食を共にする、まだそんな時代だった。

 タイガースが宜野座村球場にキャンプ地を移したのは星野監督2年目の2003年のこと。長年お世話になった安芸市への配慮もあり、2011年までは2月前半を宜野座で過ごし、後半は安芸に移動するというパターンが続いた。宜野座に完全移転したのは2012年から。2023年にはそれまで一軍の後を受けて安芸で春季キャンプを張っていた二軍も、沖縄の具志川球場に拠点を移した。

 従って、取材という意味では宜野座でのキャンプのことは知らない。ただその後立場が変わり、チームへの表敬も兼ねてキャンプ地には毎年訪れていたので、宜野座の様子も手に取るようにわかっている。

                  ◇

 一行を案内してレンタカーで那覇から高速道路を北上、1時間余りで宜野座球場に到着した。時間は午前10時ごろ。駐車場にはキャンプの準備をする関係者の車が数台とまっているが、人の気配はほとんどない。そんな中、キャンプを訪れるファンの聖地とも言われる「パーラーぎのざ」が開店の準備をしていた。梅野選手はこの店とのつきあいが深く、自主トレ中のランチでも毎日お世話になっているとデイリーに書いてあった。

 グラウンドは無人だったので、室内練習場に回ると、男女5~6人のグループがたむろして何か話し合っている。着ているものを見れば阪神ファン、しかもこちらと同じ梅ちゃん目的の来訪者であることはひと目でわかる。

 「沖縄にはいつ来られましたか?」

 こちらの様子を見て、声をかけられた。

 「沖縄には20日に。きょうは梅ちゃんを見てから帰ります」

 そう答えると、ビックリするような話が。

 「梅ちゃん、きょうはお休みなんです。急な用事ができたとかで。SNSにも出ていなくて…。こちらに来て自主トレメンバーから教えられたんです」

 「えーっ!!」

 大声を上げた梅ちゃんイチ押しの連れに気の毒そうな視線が注がれる。

 何ともこればかりは仕方がない。

 肩を落とし、本題のグルメ旅に戻ることにした。