那覇にある山羊料理「さかえ」を友人との旅行で再訪したのは1月下旬。開店の5時に予約を入れて、4人でカウンンターに座った。しばらくすると、次々に客がやって来て、店はぎゅうぎゅうの満杯になった。

 何から何までひとりで切り盛りする女将は厨房を離れられず、カウンターに次々乗せられる注文の品を店内に回すのはカウンターに座った客の役目。これもいつものことだ。

 しゃべっている暇はないように思うのだが、誰に語りかけるともなく女将の話は絶好調。この日、聞かせてもらったのは県外客の多いここ店の、その中でも飛び切りのお馴染みさんのことだった。

 神奈川県からよく訪れていた女性客が、看護師の仕事を定年で退職した記念に、自分へのご褒美と夫婦で沖縄にやって来た。滞在期間は1カ月。店の近くにマンスリーマンションを借りての那覇住まいだった。

 このご夫婦、その1カ月の間、店の定休日の日曜日を除く毎日、1日も欠かすことなく通い詰めてくれたのだという。

 もう一人は新潟在住のお馴染みさん。こちらは月に一度、週末に新潟から那覇へ、というよりこの「さかえ」に飛んでやって来る。

 「お金もかかると思うんだけどねえ」

 その日も自分たち4人のグループの他に、地元の男性グループが6人、観光客らしい2人連れが1組、米国人男性と中国人女性のカップル、若い男性のひとり客…といった顔触れ。満員状態にもかかわらず、いくつかのグループが次々に入口を開け、店内の様子を見てあきらめて引き返していった。もちろんその間、取ってもらえるアテのない電話は鳴りっぱなしだ。

 超レアメニューのたまちゃんは仕方ないとしても、楽しみにしていた山羊汁もダシを取る骨が入っていないということで残念ながらお目にかかれなかった。というわけで、昨年の初訪店のときと同じく、山羊刺し、焼肉、瑞泉(泡)古酒の3点セットに変わらぬ舌鼓を打った。いずれも絶品。とにかくうまい。

 グループの案内役として何より安心したのは、他の3人が独特な店の雰囲気になじみ、イチ押しの山羊刺しのおいしさにに目を丸くしていたこと。

 逆に宿題もある。女将が自信満々に胸を張る山羊汁をいただくこと、あとはたまちゃんとも奇跡の対面を果たしたい。神奈川県からやって来て1カ月間通い詰めたというご夫婦の真似はできないが、幸運を祈りつつ、ドアをくぐる回数を重ねるしかない。

 大満足で店を出ると、いつになるかわからない空席を待って、先ほど引き返していったはずのグループが2組、店の前に立っていた。