※投稿時のミスにより、公開が遅れ、内容と日時がずれております。何卒、ご容赦ください。

齋藤 吉正  脚本・演出
ミュージカル
『TOP HAT』


人気のために、中々チケットが取れず、

ようやく千穐楽前日のソアレを

観ることが出来た。

この日、

イースターの時期ということで、

卵形のメッセージカードが、

観劇記念にプレゼントされていた。


洒落た贈り物に、

観劇の気分も盛り上がる。


で、帰り道に『ふと』思ってしまった。


柚香なら、『TOP HAT』より

イースター パレードの方が

 似合うんじゃないか? と。


一回だけの

観劇だったので、観たままの感想です。

どうぞご了承ください。


『TOP HAT』は、

1935年公開のミュージカル映画。

フレッド・アステア

とジンジャー・ロジャースの

コンビで主演した第4作目に当たる

大ヒット作品。


初の舞台化は

2011年のイギリス国内ツアー。

翌年にはウェスト・エンドでも開幕。


日本での初演は、2015年5月

宝塚歌劇宙組の梅田芸術劇場公演。

朝夏まなとのトップ御披露目作品だった。


朝夏が演じた時も

『何か、ちょっと違う…… 』

と感じたのだけれど、

この時の共演者の強烈な個性のおかげで、

第2幕からは、俄然面白くなった。

それは、

ベイツの寿つかさ、

ベディーニの愛月ひかる、

マッヂの純矢ちとせ 

ホレスの七海ひろき  という面々。


アステアの作品は、リメイクがしにくい。

アステアほど踊れるダンサーが、

中々現れないというのが、

最大の理由なのだけれど、

『超ハンサムでも困る』という、

アステアに対しては、

大変失礼な理由がある(笑)


お世辞にも、

アステアは『ハンサム』だとか『二枚目』

とは言い辛い。

愛嬌のある、ファニーフェイスと

言われることもあるけれど、

アステアの場合は、

彼のしぐさや服の着こなし、

清潔さや繊細さなど、

『エレガント』と形容される

彼の見た目全体が作り出す雰囲気が、

ある一瞬に

『とんでもない男前』

に見せるのだ。



それ故に、
アステアの作品のほとんどが、
彼が『ハンサム』『二枚目』という
設定にはなっていない。
ひょうきんで、
おっちょこちょいの三枚目、
軽くて不真面目に見える男の設定だ。

そりゃそうだ。
今回の『TOP HAT』にしたって、
もし、
ジェリー・トラバースが
目も覚めるほどの美男子で、
女性なら誰もが惚れる人物なら、
デイルはすぐにでも、
ジェリーのアプローチに応えていただろう。

第一印象が『全くダメ! 』だった男が、
実は、
誠実で、優しく、包容力に溢れた
素晴らしい男性だったと判る……
そういう過程が
アステア作品の魅力である。

女性だけでなく、男性からも、
アステアが絶大な支持を得たのは、
彼の出演作品が、
必ず『アステアに惚れる』ように
作られているからだ。

トップスターが、最初から
絶対的に『美しくて、カッコいい』と
いう宝塚歌劇では、その設定が
難 点になる。

柚香の大先輩、元花組トップスターの
大浦みずき が、アステアを敬愛して
いたことは、よく知られている。

けれどナツメは、
『宝塚のトップスター』として演じる
のであれば、ジーン・ケリーや
トミー・チューンを目指すべきだと
考えていた。

ミュージカル『イースター パレード』は、
元はジーン・ケリーの作品だった。
ところが、
ケリーが撮影以外の場所で
骨折してしまい、映画を降板せざる
を得なくなった。
それで、ケリーから直接
アステアに代役を要望したのだ。

当時のアステアは、
映画から引退を宣言していたけれど、
この作品で、見事にカムバックを果たす。
そのためか、アステアの作品には
珍しく、彼が三枚目である要素が少ない。

これが、
どうしても柚香が、
アステアの作品を上演するなら
イースター パレード
の方が、似合うんじゃないか?
 と思うところだ。

宝塚で初演した、朝夏まなとに
『何か、ちょっと違う…… 』
と感じたのは、
ジェリーの軽さを出そうとしたのか、
声のトーンや台詞回しを、
誇張し過ぎるところがあったからだ。
そのため、
ホレスを演じる七海ひろきも、
朝夏に合わせて誇張気味になり、
第1幕の前半は、
2人だけが異質に見えてしまった。
あれで、
寿つかさのベイツや
愛月ひかるのベディーニの怪演が
無ければ、きっと『空回り』のまま
幕が降りていただろう。

例えば、

幕開きから、ホレスの異常な心配症を、
ジェリーがからかう場面がある。
淡々と台詞を言えば、
ホレスの話している内容は、
『これをしたら、こうなって』
『そしたらまた、こうなって』……と
次々と起こる事象を言っているだけで、
喜劇的な要素は何もない。
負のスパイラルに陥っているのだから、
普通なら『笑えない』話なのだ。

この『笑えない』内容でも、
第3者が罪悪感なく笑えるように、
台詞に色や温度を付けてゆくのが、
喜劇の基礎だ。

特にホレスの場合は、
彼の不幸が、
ストーリーの展開に関わっている。
次々と不幸に見舞われる
彼の状況を『笑う』には、
ホレスの話しを、
受ける側の反応が重要になってくる。

漫才でいう『ボケ』と『ツッコミ』
の関係である。
ツッコミは、ボケより難しい。
異常であることを、
単純に『それはおかしい』と指摘しても、
笑いにはならない。
異常であることの『度』が過ぎてから、
通常に引き戻す『差』が『笑い』になる。
なのでツッコミは、
『度』が過ぎるまでと、
『度』が過ぎた後を、
コントロールしなければならないのだ。

が、

今回の柚香は、
そういう『喜劇味』を、
極力出さないようにしている。
ずっと
『カッコいいスター』で通している。
いわゆる『相手に乗らない』のだ。


ホレスの水美に対して、
柚香が『乗らない』=『冷めた』
反応をするから、
水美の作る『笑い』が、
『引く笑い』に偏ってしまった。

ホレスに対して
『冷めた』反応をするのは、
音くり寿が演じる マッヂの役割であり、
輝月ゆうまが演じる執事 ベイツの
役割だ。
そのせいで…… とは言いたくないけれど、
輝月の慇懃無礼な『冷めた』反応が、
第一幕では中々『活きて』こない。

第二幕になり、輝月が自由に、
そして、水美とも息があった
やり取りを始めると、
客席も自然と笑いが大きくなる。

やはり、
ジェリーとホレスの関係は、
歳が離れてはいても、
『男子校のノリ』のような、
茶目っ気たっぷりの
悪童同士でなければならないだろう。
今回はそのために、
水美と組んでいるはずだ。
その上に、
輝月ベイツがさらに『乗る』から、
第二幕がより面白くなるなるのだ。

さらに……
『カッコいい 柚香ジェリー』は、
星風まどか とのコンビネーションにも
微妙な印象を与えている。

先にも書いたけれど、
こんなにカッコいいのに、
何故デイルは、ジェリーに惚れない? 
と、普通なら不思議に思う。

デイルにとって、
ジェリーの第一印象は
調子が良くて、自意識過剰な、
イケメンでもない、
しつこいナンパ野郎💢なのだ。
だからジェリーを拒絶している。

そんな彼女の印象を、
劇的に変化させるのが、
『Isn't This a Lovely Day』の
言葉より雄弁なジェリーのダンスだ。
それに口説かれるように、
ステップを踏み始めるデイル。
ここが、
アステアとロジャースの真骨頂だし、
そのギャップが、喜劇味であるし、
物語としては、
デイルがジェリーを信用するところだ。

しかし、

柚香のギャップが小さいために、
星風デイルが、
どうして急に、ジェリーに惚れるのか
ハッキリしない。

せっかく星風が、完全無視から、
ツンツン、プリプリ、もぅー!💢 と、
コロコロと表情を変えながら、
最後には
…… あれっ? 最初と印象が違う……  と、
そんな細かい描写をしているのに、
これもまた、残念なことに
『活きて』こない。

昨年の
『NICE WORK IF YOU CAN GET IT』と
違う感じに見せたかったのか、
あるいは、
『アステア』=『カッコいい』というのが、
柚香の信念なのか、
1度観ただけでは、判らなかった。

宙組と比べれば、タップも揃っていたし、
ダンスも迫力があって良かっただけに、
柚香の設定に、もう一工夫が欲しい。
ルックスは変えられないのだから。

次に、

愛月ひかる の怪演を、
引き継ぐことになった
帆純まひろのベディーニ。

帆純まひろ という人は、
愛月とは全くタイプが違うのだから、
違うベディーニを創造出来たはず。
そこが実に、勿体ない。
この人こそ、見た目に『良い男』で
あるべきだろう。
そうでなければ、柚香ジェリーと
張り合うことが出来ない。
見た目が良い男なのに、癖が強い
イタリア男だから『面白い』のだ。
見た目一発の笑いでは、長丁場は
続かない。

私が観た時の、第二幕の大詰め近く、
ジェリーを人違いしたベディーニが、
『殺してやる! 』とホレスに
襲い掛かるところで、
勢い余った帆純ベディーニが、
凶器の爪ヤスリを、
舞台の2階からすっ飛ばしてしまった。

帆純も困っただろうが、
襲われる側の水美は、もっと困っただろう。
爪ヤスリ程度の小さいものだから、
手に持っている
素振りで誤魔化せたかもしれない。
水美はおそらく、誤魔化すつもりで
いたのだろう。

ところが、

『……下に …… 落としました…… 』
と帆純が思わず呟いてしまった。
彼女は正直者らしい。
水美も、呟かれたら仕方がない(笑)
『ええぇっ! 』
と、かなりオーバーに騒いで、
“ドコに落とした?” 
とリアクションをして見せた。
でも、それ以上は無理だ。
ホレスがベディーニを助ける訳には
いかないし、逃げることも出来ない(笑)

が、

この時の音くり寿 の機転が凄かった。
アドリブだから、
正確には書けないけれど

“ 見といてあげるから、
 2人で好きなだけやりなさい ”

と言い放った。
これで、帆純は本筋に戻せたはずだ。

ところが、かなり動揺していたのだろう、
帆純の台詞が出てこない。

それで、
形勢逆転とばかりに水美が
『やるのかぁ~! 』
と好戦的なポーズを取って、
オロオロする帆純に合わせた。

おそらく階下では、
異変に気付いた
オーケストラのメンバーや、
大道具さんたちが、
小さな爪ヤスリを探し回っているはず……

後で騒ぎを止めに登場する、
ホテル支配人役の航琉ひびき 副組長まで
助け舟でやって来て、
ようやく、爪ヤスリが戻ってきた。

そして再び、機転の一言

“ さぁ、気を取り直して!
 これからここで殺人事件が~ ”

と、
音がグイッと本筋に戻した。

この公演では、舞台設備のトラブルなど
ハプニングが多発したそうだが、
それでも音の機転は、
中々出来るものではない。
本当に感服した。

100期とまだまだ若い 音くり寿 に、
二幕目から登場する『おばちゃん』役は、
他に役が無いとは言え、
実に気の毒だと思っていた。
しかし、
力量と舞台度胸の良さを考えれば、
今の花組には、彼女しかいない。
これからも、益々活躍してくれるだろう。

以上、今回はここまで。

最後まで読んで頂き、
真にありがとうございます。

次回は雪組公演です。