前回からの続き。

『モン・パリ』誕生50年 記念公演
                            花組公演『ザ・レビュー』

M氏からお聞きした『レビューに必要な5つのT』とは、

①テーマ Theme
②タイトル Title
③テクニック Technique
④劇団 Troupe またはTeam
⑤劇場  Theater

の5つだ。

『まあこれは、作る側に重要なことで…… 』

と念を押し、

『テーマとタイトルがしっくりくれば、8割方は出来上がったと言うか、成功なんです。
ただ、そこに辿り着くのが一番難しい』

と、苦笑いされた。

テーマとタイトル。
これはレビューに限らず、小説でも芝居でも重要なことだ。
しかし、小説や芝居には『逃げ道』がある。展開して行く中で、修正も説明もできるからだ。

レビューではその『逃げ道』が無い。
何しろ『見た目』が勝負だ。

オープニングで、タイトルと少しでも違和感があれば、観客は離れてしまう。

『後で修正…… 』は出来ないのだ。

ことに宝塚では、主題歌の歌詞にタイトルを入れるのが基本になっている。
テーマと見た目の違和感や、タイトルがしっくりしてないと、確かに観客は『?』となるだろう。

次のテクニックとは、作家、演出家、出演者だけでなく、スタッフや運営までも含めた、総合的なテクニック=技術のことだ。

例えば衣装について、こんな話がある。

新 宝塚大劇場杮落とし公演
               『パルファン・ド・パリ』のオープニング

今の大劇場の杮落とし公演『パルファン・ド・パリ』で、当時全盛期であったデザイナー高田賢三氏に、衣装デザインの他、様々なコーディネートを依頼した。

「色彩の魔術師」と呼ばれた高田氏の衣装だから『きっと素晴らしいものが見れるに違いない!』と皆が期待していた。

ところが、

いざ幕が上がってみると、正直な感想は
『思ったほど…… 』だった。

  オープニングで歌う、星組トップスター 紫苑ゆう

確かにカラフルだし、洒落てもいるのだけれど、舞台衣装ではないのが明らかだった。



フィナーレの衣装は、男役は出来損ないのサンバの衣装かピエロ。
娘役は微妙なスカート丈で、膨らみもなく
ドロ~ンとした感じ。

特別出演の花組2番手(当時)の 真矢みき
『パルファン・ド・パリ』のフィナーレで歌う紫苑ゆう

スター級の衣装も、ちょっと派手目の田舎の花婿用貸衣装のようで、背中の羽根は、車のホコリを掃除する『羽根ハタキ』が何本も刺さっているようだった。

帰り道で口の悪いファンが
『杮落としで、スパンコールをケチってどないすんねん!』
と不満を言うくらい、『宝塚の衣装』としては地味だったのだ。

      レビュー『ジャンプ・オリエント!』のフィナーレ
星組トップスター紫苑ゆう が、『パルファン・ド・パリ』の次公演で負傷し、ケガから復帰した公演。

宝塚のファンからすると『当たり前』のことが、宝塚以外では『とんでもなくハイレベル』なことが沢山ある。

衣装に付いているスパンコールやビジューにしても、宝塚なら『いっぱい付いていて当たり前』だが、ファッションの世界では、スパンコールを付けるのも、ビジューを1個増やすのも、費用がかかる。
スパンコールやビジューだけを縫い付ける専門の工房があるくらいだ。

舞台稽古を見ていた衣装部さんが
『なんや足らんな、もうちょっと足そかぁ』
と日増しにビジューが増えて行くようなことは、外部の舞台では決してない。

宝塚では当たり前のように、回り舞台がグルグル回り、セリも大中小が激しく上下する。
けれど、歌舞伎や宝塚の公演以外で、回り舞台やセリが多用されることは珍しい。
それは、安全の確保が難しいからだ。
セリを使うにも、盆を回すのにも、熟練したスタッフが必要になる。
もちろん出演者にも修練が必要だ。誤って下がっているセリに落ちたら、ケガだけでは済まないことだってある。


現在公演中のタカラヅカ・スペクタキュラー
『Délicieux(デリシュー)!-甘美なる巴里-』で
ラインダンスを披露する107期生。

宝塚の初舞台生は、御披露目のラインダンスの最後に、銀橋をチェッサで渡る。
その舞台稽古では、初舞台生がオーケストラピットへの落下を防ぐため、銀橋と両花道のつけ際、銀橋中央の3ヵ所に、わざとスタッフが座り、スタッフを迂回させることで、身体の感覚でその距離感を掴ませる。
銀橋を渡る時、初舞台生たちは視線を常に客席に向けているので、足元はおろか、進行方向さえ見ていない。
もし本番で、足元を見たとしても、上からのライトと脚光で、真っ白にしか見えないだろう。
だから彼女達は感覚だけで、あの緩やかにカーブした銀橋と花道を、渡り切っているのだ。

そんな修練を重ねることで、やがてはリズムだけで、自分がどれだけ歩いたか判るようになる。

『大階段で、上から1段目に足を下ろして4拍子で降りると、自分の歌い出しは○段目』

とか

『この曲だと、前の人のあの歌詞で袖から出て、7歩目で自分の歌い出しになるから……』

なんてことが頭の中で、シミュレーションできてしまう。

出演者だけでも約80人。舞台上の裏方スタッフ、オーケストラ、照明や音響などを合わせると、約150人以上が毎公演、一斉に動いている。
人の出入り、安全の確保をするだけでも大変なものだ。
それが宝塚と東京の2ヵ所で、通年公演されている。

それもこれも『レビュー』という演目を上演するため、特殊な技術=テクニックが不可欠なのだ。

しかし、宝塚歌劇は基本的にロングラン公演をしない。伝統芸能のような固定した内容ではないから、画一化されたマニュアルなどで公演をするのは不可能だ。

だから、テクニックを維持、育成するために、独自のTroupe=劇団、一座が必要になるし、自前の専用劇場=Theaterも必要になるのだ。


実はこの『5つのT』を無視したために、消滅してしまったレビュー劇団が3つもある。

OSKこと大阪松竹歌劇団と、その姉妹劇団であったSKDこと松竹歌劇団。そして東宝傘下のNDT=日劇ダンシングチームの3劇団だ。


長くなってしまったので、今回はここまでで。

次回は、OSKとSKDとNDTのお話と、M氏が話された『レビューに必要なもう1つのS』について。