『モン・パリ』誕生50年 記念公演
                雪組公演『ザ・レビュー』のフィナーレ

ある時、ネットで

『レビューとショーの違い』

と言う内容の記事を見つけ、その回答として、宝塚歌劇団の演出家  岡田敬二の持論である

レビューは「時代劇」
ショーは「現代劇」

と言う内容を見た。そして何人かの方々が、その内容に『納得』しているのだ。

私は『え?』と全く意味が判らなかった。

時代劇でも現代劇でも、何でも構わないのだが、何を基準に分別するのか?

もし、レビューには『時代劇のような様式美がある』けれど、ショーには『現代劇のように決まったスタイルがない』と言うことなら、それは演出の違いである。
決まったスタイルが無い、様式美に囚われない時代劇を作ることだって出来るし、様式美にこだわった現代劇だって可能だ。

はっきり言う。
レビューとショーには違いがある。

岡田敬二の師匠筋に当たる演出家 高木史朗の著作『レヴューの王様  白井鐵造と宝塚』に、高木がレヴューについて書いている。

以下、原文をそのままに抜き出してみる。

レヴューはなによりもまず、スピーディー(speedy)に運ばれなければならない。これはレヴューの第一課とも言うべき必要条件である。次にスペクタクル(spectacle)で豪華な場面が用意されていなくてはならない。またショッキング(schocking)なアイディアや演出が大切である。そして全体の運びがスムース(smooth)でなければならない。ギクシャクした場面のつなぎ方ではいかんともしがたく、なによりも流れるような場面転換が大事である。最後に欠かせないのが、スター(star)である。多くの大スターを最大限に生かして観客を楽しませることこそ、レヴューのレヴューたる楽しさなのである。

高木史朗 著
         『レヴューの王様 白井鐵造と宝塚』から抜粋。

高木史朗はこれを
『レヴューに必要な5つのS』と定義付けた。

これなら理解できるのだ。

では『ショー』とはなんだろう?

『ショー』が理解できなければ、その違いも理解できない。

実はネットでその記事を見つけるより、はるか昔のこと。

私はある人に
『レビューとショーはどう違うんですか?』と尋ねたことがあった。

ある人のお名前は差し控えるが、レビューに関わっておられた方だ。仮にM氏とする。

M氏はニッコリ笑って、

『レビューはフランス語、ショーは英語です』

との返答を得た。

確かに(笑)  

宝塚歌劇団は英語の『review』ではなく、フランス語の『revue』を用いている。発音的には『レ ビュウ』

そう答えた後、こう続けたられた

『ショーは誰でも作れます。出演者も、場所も、スタッフも選びません。でもレビューは、レビューを作れる人と環境がなければ完成しません』

そうして楽しいお話を沢山聴かせて頂いた。

全部はとても書けないので、その一端の中から、さらに一寸ばかり選んで書いてみようと思う。

まずは言葉の整理から。

ショー=showとは『見せる』と言う意味そのままに、あらゆる『見せ物』=エンターテイメント全てを指す。
路上パフォーマンスも、サーカスも、寄席も、普通のお芝居も、シェイクスピア劇も、オペラも、ミュージカルも、もちろんレビューも『show』なのだ。
ただしこれは、実にアメリカ的概念=大まかな意味でのこと。

私たちが演劇全般をひっくるめて『お芝居』と言うようなものだ。


だが、いくら大まかなアメリカ人でも、内容の違いはちゃんと理解している。
その証拠に、ブロードウェイの劇場で入場者に無料で配られるプログラム『Playbill(プレイビル)』には、タイトルの後に(musical)(play)(show)などとその内容が記されている。
ブロードウェイで『Les Misérables』が初演された頃は、(opera)と表記してあった。
なるほど、確かに歌うばかりで、セリフもダンスも無い(笑)

私たちが漠然と『ショーだと思っている』あのショーは、簡単に言えば『レビューの廉価版』『レビューの良いとこ取り』から出来たものだ。

例えば『泊まれる場所』と一口に言っても、公園や駅のベンチ、キャンプ場もあれば、5つ星ホテル、迎賓館まである。
もし『レビュー』を例えるなら、5つ星以上の超豪華ホテルだと言える。



この写真は、1989年 今はもう取り壊された東京ベイNKホールで公演された、『フランク・シナトラ ライザ・ミネリ サミー・ デイヴィスJr スーパーコンサート』のフィナーレだ。

一目で『おぉ!』と思わず声が出てしまう出演者ではあるけれど、これをレビューとは呼ばない。


このコンサートは、日本ではNKホールと大阪城ホールで公演されたが、ご覧のようにアリーナ席のど真ん中に、プロレスのリングのようなものを置いたステージで、まさに『3人の歌のバトル』という感じだった。だから勿論、セットも何も無い。


アメリカ国内での公演でも、ご覧のようにオーケストラのバックに吊り物があるだけ。
これはデトロイトのオペラハウスでの公演で、オーケストラピットに蓋をして、張り出し舞台にしている。背景は反響板の代わりだ。
衣装はライザ・ミネリが1度着替えるだけで、サミーも公演場所によってスーツからタキシードに着替えるか、シナトラと同じでタキシード1着で済ませた。
ショーの構成は、サミー→ライザ→シナトラの順番で、各々が独りで持ち時間を歌い、後半は3人が交互に歌い継ぎ、フィナーレは3人で『ニューヨーク・ニューヨーク』を歌い上げた。
約1時間半の公演だったけれど、全く見た目には変わらないし、他の出演者もいない。

もし『Playbill』が分類したら、コンサートかショーのどちらかになるだろう。

レビューについてM氏は
『最も重要なのは、見た目の強烈さなんです』
と話された。
つまり『スペクタクルであること』を第一条件に挙げられた。

宝塚歌劇団創立70周年記念
           月組公演『ザ・レビューⅡ』のオープニング

宝塚のショーには、最近は良く『スペクタキュラー』(Spectacular)と冠に付いているものがある。
Spectacularとは、『劇的』『壮観』『豪華』と言う形容詞。『レビュー』の意味をアメリカ風に言い替えたものだ。


ラジオシティミュージックホールの内部

ニューヨークの冬の風物詩、ラジオシティミュージックホールで上演されるクリスマスショーは、『クリスマス スペクタキュラー』のタイトルで90年以上続いている。


因みに、

ラジオシティミュージックホールの『クリスマス スペクタキュラー』は、宝塚歌劇団と同様に女性ダンサーだけで構成された劇団 The Rockettes(ザ・ロケッツ)が上演している。




このThe Rockettesの売り物が、ラインダンスである。
『クリスマス スペクタキュラー』では、手を変え品を変えて様々なラインダンスが披露されるが、中でも彼女たちの代名詞となっているのが、足先を目線まで蹴り上げるハイキックダンス、通称『ロケットダンス』だ。


『ラインダンスとロケットダンスは、何が違う?』と疑問に思われている人には、これで理解できるだろう。

『ラインダンス』とは、ライン=列になって、あるいはフォーメーション=隊列を組んで、全員が一斉に同じステップ、同じ振りで踊るダンスをいう。別に脚を上げる振りが無くても良い。
そのラインダンスの振付で、一斉に脚を高く上げて見せることをメインにしているのが『ロケットダンス』だ。

詳しくない人でも、宝塚歌劇やレビューと聞いて、何となくラインダンスやロケットダンスを思い浮かべる人が多いのは、やはり視覚的に強烈だからだろう。

そもそもが、劇場やカフェの客寄せのために『何でもあり!』の見世物をやったのが、レビュー誕生の1つ要因だ。強烈なのは当然なこと。

それを舞台芸術にまで高めたのが、アメリカで『レビュー王』と呼ばれたフローレンツ・ジーグフェルドJr.だ。

1986年に星組で上演された『レビュー交響楽』で、峰ちゃんが演じた役である。

そして日本で、独自にレビューを完成させたのが、高木史朗の師匠である宝塚歌劇団の演出家  白井鐵造である。

脱線して長くなってしまったm(_ _)m

高木史朗の『5つのS』に加えて、M氏から聞いた『レビューに必要な5つのT』の話は次回に。


※抜粋内容など、特別な事情が無い限り『レビュー』で表記を統一しています。