『藤井大介は、ずっとスランプにある』
私はずっとそう思っている。
それは『いつか鴨川清作を凌駕する作品を連発してくれるだろう』と思っているからだ。



レビュー・ファンタスティーク
『Santé!! 〜最高級ワインをあなたに〜』


ショー・パッショナブル
『Gato Bonito!! 〜ガート・ボニート、美しい猫のような男〜』


レビュー・エキゾチカ
『クルンテープ 天使の都』


ショー・トゥー・クール
『アクアヴィーテ !! 〜生命の水〜』


ここ数年のショーの題材は、酒が2本に、猫一匹と観光ガイド(笑)

毎度楽しい題材だけれど、どうも『こだわり』が空回りしている。

大ちゃんの悪いところは、

①『こだわり』と『ノリ』をやり過ぎてしまうことがある

②様々な道具や効果を『試してみたい』『使ってみたい』が多い

③衣装選びのセンスが『?』のことが多い

そんなことから、観客が置いてきぼりになることもある。

『クルンテープ  天使の都』だと、せっかく幕開きから良い感じで運んできたのに、ムエタイのシーンが妙に長く、流れが止まってしまう。

タイはイギリスと友好国。だから『王様と私』というミュージカルが出来たんだし、このショーでも中詰めとフィナーレのデュエットダンスに『王様と私』のナンバーが使われている。
なのに、美園さくらに『セ マニフィーク』を歌わせるのは如何なものか?
『セ マニフィーク』はフランス語で『何て素晴らしい!』『素敵!』という意味だ。
使うなら、タイのお隣のカンボジアかベトナムを題材にしたショーにすべきだろう?

おそらく『エメラルド仏』をイメージしたであろう緑色の民族衣装を、珠城は1度ならず2度も着て登場する。ご丁寧にも頭上に『仏塔』を頂いた本格的なこしらえだ。
誰かさんが『タイの大仏?』と呟いていた。
美弥るりかは新興宗教の教祖様みたいだ(笑)

さて、今回のショー


パッショネイト・ファンタジー
『Cool Beast!!』
は『柚香と瀬戸のためのショー』だと言える。それは良いところ。

しかしそのために、似たような場面が続く『変化に乏しいショー』となったのは残念だ。

やはり誉める前に、悪いところを。

タイトルは『Cool Beast!!』なのに、幕開き早々から『bestia』=ベスティア→スペイン語で『獣』という言葉が登場する。

柚香がベスティア、華優希がフローレス=花々という意味。
瀬戸かずやが演じるエストームは、おそらく『私』などの意味を持つポルトガル語からの造語ではないだろうか? 
大ちゃんは『優人』という意味を付けている。(間違っていたら御免なさい)

それならタイトルも『Mola Bestia!!』(モラ  ベスティア)とスペイン語にすればいいのではないか? 

いくら凪七がカッコ良く『ベスティア、フローレスに恋をする……』と紹介しても、ベスティアの意味が判らなければ『ベスティアって誰?』『てか、そもそもベスティアって何?』となる。

ベスティアとフローレスが恋に落ちても、2人が命を落としても、セリで下がるのは如何なものか?

エストームもセリで上がってくるし、彷徨っているし、倒れるし……
生死の判別もつかない(笑)

セリを使うのは悪くはない。
だが、ただの便利なリフトになってはいないか? 似たような場面処理になってはいないか?
『変化に乏しい』と感じてしまう一因だ。


凪七瑠海は『夢の王』 美穂圭子は『夢の女王』という役。


この2人に観客は『アフリカの妖しい夜の夢』を見せられているのだと、私は解釈している。

もし本当に『夢』であるなら、いくら『夢』でもハチャメチャが過ぎる。

プロローグ明けに、ベスティアとフローレスが恋に落ちる美しい場面で始めたばかりのストーリーを、ナイトクラブのシーンと中詰めでブッた切る必要があるだろうか?

1時間ドラマのオープニングが終わった後、物語が始まった途端にCMが入り、CM明けはドラマに戻らずキャラクター紹介やロケ地案内、長いドキュメンタリータッチのCMが延々と入って、どんな内容かも忘れた頃に、物語は最終盤になっている…… 
『えっ! 元の筋に戻った!』と気付いたら、もうクレジットタイトルが流れ始めている……

例えるなら、そんなショーだ。

単純に言えば『構成』が悪い。
ベスティアとフローレスのくだりは中詰め以降にギュッと詰めるべきではないか?

それぞれの場面が面白いのに、とても勿体ない。

1995年 草野旦作 グランド・ショー『バロック千一夜』
左から、高嶺ふぶき、一路真輝、花總まり

幕開きの衣装を見て『ん? バロック千一夜か?』と思った。
(古い人にしか判らない話で申し訳ないm(_ _)m )

あの手の衣装は、観客の目の前で『バッ』と脱ぎ捨てて、衣装がガラリと変わるのを楽しませるためのもの。
糸の切れた凧のように、フラフラと銀橋を回るだけではつまらない。

とりあえず愚痴は、ここまで。

私が初見したのは、初日から3日後の午後の部。2回目は更に一週間後の、やはり午後の部。

幕開き、美穂と凪七のオープニング、柚香・華・瀬戸のナンバーが終わり、ほぼ全てのメンバーが登場して待ち構える中、ベスティアに扮した柚香がセリ上がってくる。
普通の赤よりも、更に明るい真っ赤な髪と、ボルドー色のファーに縁取られた真っ赤な衣装がとても似合う。



色香滴る野獣ぶり(?)だが、下品にならないのが柚香の良いところ。


柚香がお気に入りと言う『テラ インコニタ』(ベスティアとフローレスが恋に落ちる場面)は、美穂圭子の歌声と相まって、とても美しい場面になっている。

艶花フローレスを演じる華優希も可憐そのものだ。

再び愚痴になるが、大ちゃんよ……

これが最後となる華優希に、もう少し『良い場面』を作れなかったものか?
フロートに乗せて市中引回しの刑にする中詰めには『?』だし、七段目のお軽のように花びらを撒いて死に、最後はジュディ・オングのような衣装で復活というのも『で、フローレスって結局は何?』と考えてしまう。


華優希という人は、芝居心がしっかりある人だ。同時に退団する瀬戸かずやも芝居が達者な人。

この2人を最大限に活かすことを考え、柚香の『裸足で踊ってみたい』という願望も叶えるのなら、草野さんの『オペラ トロピカル』のような、しっかりとしたストーリー仕立てのラテンショーにした方が良かっただろう。


1983年  草野旦 作  レビュー『オペラ・トロピカル』
花組トップスター 順みつきのサヨナラ公演。
全編大階段を降ろしたままと言う、草野旦の野心作。

昔は『ラテン』となると、裸足で髪を振り乱し、スカートを激しく捌きながら踊り狂うのが当たり前だったけれど、現在はかなり『大人しくなった』気がする。
まあ裸足で舞台を走り回るには、安全面の管理が大変だからと言う理由があるからかもしれない。

再び愚痴はここまで。

その、瀬戸かずやである。


瀬戸を一言で現すなら『堅実』
本当に何をしても、これほど手堅い人は、そうそう現れないだろう。
昔の『堅実』な人と言えば、尚すみれや洋ゆりを思い出す。

アンドロジナスとなったベスティアの柚香とのダンスシーンが成立するのも、瀬戸ならではだろう。


この手の内容は、1つ間違えれば単なる『妖しい際物』になってしまう。
悪く言えば『オカマのデュエットダンス』だ。

柚香はこれまでにも、何度もショーで明日海りおの相手(女役)をこなしているし、技術的には十分。
ただ、明日海は線の細さや、受けて立つタイプの人ではなかったため、違和感は拭えなかった。

今回、瀬戸がしっかり受けてくれることで、一番充実感を得ているのは柚香ではないだろうか?

長くなるので、残る3人を、断腸の思いで手短に。

美穂圭子の歌声は『流石!』の一言。

凪七瑠海は、お芝居に引き続き『お疲れ様』と言う他ない。
本当に器用に使われ過ぎで、気の毒にさえ思う。

最後は水美舞斗。


とにかく『これ以上楽しいことはない』というような笑顔満点で、観ているこちらも楽しくなる。

新たな花組を、これから同期の柚香とともに作ってくれることだろう。

次回は珠城りょう、美園さくらの退団公演を。

それまでの間に、古い話しやショーとレビューの話しなどなど。


追記

本来なら、もう少し早く投稿するつもりでおりましたが、ご承知のように新型コロナ流行による非常事態宣言発出による公演中止を聞いて、投稿を控えておりました。

残念にも御覧になれなかった方々が、大勢いらっしゃると存じます。ご心情お察し申し上げます。


今回、非常事態宣言の緩和による公演再開の決定を聞き、改めて投稿することに致しました。


どうか花組が、東宝公演を無事に打ち上げられますように。

末筆ながら、皆様のご無事もお祈り申し上げます。