昔の宝塚を見るのもいいだろう。そんな軽い気持ちで録画されていた1980年代の宝塚レビューを見出した。



 そして、我が目を疑う。



 世にも不思議な人力で動く赤い台のようなものにスターが乗って出てきたのだ。



 それが車を模した物である事に気付くのにしばらくかかった。



 その赤い台にはおそらく車輪が付いているであろうが、車輪は隠されていて見えない。



 赤い台の左右に2人づつ生徒が座り、台と一体化した赤いケープのようなものを2人が被っていて手は見えない。その2人分の幅のケープの前に車のフロントガラスのような水色が付いている。それで車だとわかったのだ。



 彼女たちの8本の足はタイヤを模したような黒い浮き輪をいくつも重ねたようなものを履いている。



 全体的な印象は、おもちゃの車だった。



 そして、右側の2人は床を足で蹴り、左側の2人は足で床を引きつけて、左へずりずりと動いてゆくのだ。


 動きが…かなり…シュール過ぎる。


 そのチープなおもちゃの車の様な台の上でカッコよく歌うスター。



 シュルレアリズムだろうか。いや、違う。



 初めは冗談かと思った。


 だがしかし、見てゆくにつれて真剣に歌い踊るタカラジェンヌたちの真摯な姿に、それは冗談ではなく演出家は真面目に「スポーツカーの上でカッコよく歌い踊るスター」を表現したかったのだと気がついた。



 実際、スポーツカーのシュールさを除けばスターは素敵だった。



 ちなみに、私が見たのは1981年の「クレッシェンド!」(作・演出:小原弘稔、主演:瀬戸内美八)である。



「やはり車と言うのは格好良さの象徴だから舞台に出したいものなのだろうか」



 そんな風に私は思い、今まで見てきた舞台上での車を思い返していた。





 真っ先に思い出したのは、当然、最近見た星組公演の本物の車のガワ(外装)を使った動く車とバイクだ。


 そして、次に思い出したのは、何の公演だったかは忘れたが、車の下にあるロープに引っ張られて、車が舞台上を横に動いたもの。これも結構当時は驚きだった。



 ME AND MY GIRLでは車は動かず、人やものが舞台下手から上手へ後ろ向きに流れていく事で走っている感じを出していた。



 DEANではライトをふたつ、車の幅ぐらいに置いて光らせる事で車を表現していた。



 かくのごとく、演出家にとって車をいかに表現するかは課題であることが想像できる。



 現実問題として、まともに本物の車を舞台上で走らせることはできない。であれば、いかに本物らしく見せるか。




 きっと、大道具の方々にとっては挑戦の歴史が連綿とあるに違いない。


 ある意味、その集大成が「恋する天動説」の車とバイクなのかもしれない。



 おそらく燃料エンジンは使っていない、使えない(はず)。電気モーターを使うわけだが、結局近年になって、それなりの馬力の出せるモーターが小型化されていることで夢を実現できたのではないかと想像するのだが…さて?



 ちなみに、バイクというのはある程度のスピードが無いと真っ直ぐ立たない代物だ。駅伝やマラソンの先導をする白バイがすごいのは低速で走行できる事にある。


 さて、舞台上では体勢を保持できるスピードは出せないだろう。どうする?


 と思っていたら、車体の下に見えずらいように黒い小さな補助輪が付いていた。なるほどね。そりゃそうだ。




 やはりここは、スカイステージにて『真プロジェクトX 〜挑戦者たち〜 「大道具達の悲願 〜舞台に車を走らせろ〜」』を制作・放送して欲しいと願わずにはいられないのだ。



 というわけで、技術というものが好きな私は舞台を見ていても技術革新が気になるのである。


 気が向いたら次はマイクロフォンについてでも…書くかもしれないし書かないかもしれない。



追記:「恋のチェッカー・フラッグ」(作・演出・音楽:石田昌也 主演:一路真輝)には動きませんが、本物のF1カー(たぶん)が出てました。多分当時のF1か、少なくとも本物のフォーミュラカー。

(フォーミュラカーというのは、レース専用の規定に則ったレーシングカー。運転手とタイヤが剥き出しのものを指す)