「響-なげき-」7
ジャニスの言葉と同時にキーボードを押す音が聞こえた・・・
俺は数分も経たないうちに「新垣 紗江」の精神の中にいた・・・・。
以前と同じように真っ白の空間だった、そこには数か所の扉があった
前回は「結衣」と呼ばれた人格の部屋の扉を開け対話を行った・・俺自身ではなく、俺の父親「哀川 京介」として・・・ジャニスのデータのお蔭で俺は「哀川 京介」として振る舞っては見た・・上手く出来ていたのかどうなのかは分からない・・何故ならば、俺は彼を知らないから・・でも、母さんを助けるためにはこの方法しかない・・そう思えば出来ないからと言って諦める様な事だけはしたくなかった・・・
前回、開けた扉の前に立った・・・
今、この行動も全てジャニスがモニタリングしているかと思うと心なしか安心できた
信用を置ける人間ではないのは確かではあるが、現時点では彼の言う事しか母さんを助ける方法がないと思っていからだ・・・。
「この扉を開けると「結衣」がいる・・彼女は「哀川 京介」の完全なる傀儡だった・・・俺の精神が耐えきれないと見込みジャニスが前回は現在に戻したから、途中で記憶が途絶えてしまった・・だが、その晩、見た夢で続きのようなものが見えた・・・現在、この部屋に彼女はいるのか・・はたして扉が開くのだろうか・・・」そう思った・・・。
扉に手を掛けノブを引いた・・・・
「カチャ」扉はゆっくりと開いた・・・恐る恐る室内へと入った・・・
中は真っ暗な牢屋になっていた・・・
「これは最後に夢で見た監房じゃないか・・・」
そこには哀川 京介の姿は無く、ベットに横たわる「結衣」の姿だけがあった・・
「いったいどうなってしまっているんだ・・・やはり、現実・・いや・・精神世界であの続きと夢が進行したという事なのか・・分からない・・なんでこんな事が起きているんだ・・・」
一歩ずつ結衣の横たわるベットへと近づいた・・・
「ぴちゃ・・」
足元を見ると水たまりのようなものがあった・・・
「なんだこれは・・この部屋には水道関係はないはずだが・・雨漏りなのか・・精神世界での部屋で雨漏りなんてあり得るのか・・・」
横たわる結衣の元へ声を掛けようとしたときに物凄く恐ろしい光景を目にした・・・
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
床に広がるのは水ではなかったことに直ぐに気が付いた・・・
横たわる結衣には頭部が無い、死体がそこにあるだけだった・・・
『ハッハッ・・』
息をするのも容易でのないくらい息が苦しくなり、その途端、血なまぐさいような臭いが漂い始めた・・
俺は慌てて部屋を逃げ出そうとした・・・だが、部屋と扉までの距離が縮まらずに暗くて真っ暗な廊下が続いていた
『どういうことだ?この場所から逃げれないという事か!』
その時、頭の中に声が響いた・・・
「逃げないで・・彼女を終わらせてあげて・・・貴方を心の底から信じていた彼女を抱きしめてあげて・・そうすればきっと彼女は終われる・・・・」
「何・・あの死体を抱きしめろって言うのか!!冗談じゃない!そんなこと出来るかよ!」
走り続けても辿り着かない出口に不安と恐怖・・・
このまま彼女のいう言葉を聞かずにいたら、もしかしたらここの住人になってしまうのではないか・・という恐怖に包まれた・・
「タッタッタ・・・タッ」
京介は足を止めた・・・振り返ると思いっきり走ったはずなのにすぐそこには「結衣」の死体が横たわっていた・・・途端に吐き気と恐怖に襲われた・・
「駄目だ・・出来ない・・そんなこと出来るわけがない・・・」
「彼女を終わらせて・・・何度も繰り返し・・何度も死んでいる彼女を・・・」
また、声が響いた・・・
尋常じゃない呼吸、尋常でない脈拍・・・俺は頭がおかしくなってしまったのではないか・・・
何でこんなことをしなければいけないんだ・・
「頼む、ジャニス戻してくれ!俺はそんなことは出来ない・・」
心でそう叫んでも肉声となって発することが出来なかった・・・・
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[(株)MIO 地下室]
ジャニスは「小川 京介」を紗江の精神世界へ入れ込みモニターで状況を見ていた・・・
「なんだこれは・・「結衣」が死んでいる・・・確かに・・彼女は「真美」殺された・・・
前回の精神世界へのダイブから事の進み具合は早すぎる・・どういうことなんだ・・・そして「小川 京介」は
それをただ茫然と眺めている・・・」
ジャニスに映る世界と京介の見る世界には若干の変化見られはじめていた・・
「どうする・・小川 京介・・戻すべきなのか・・どうなのか・・」
ジャニスはその判断に迷った・・だが・・この問題を解決しない限り・・いつまでも「結衣」の世界を繰り返するのではないか・・・その行く末を見定める為にも様子を見ることにした・・
[紗江 精神世界]
「ジャニスに俺の声は届かないのか・・・どうしたらいいんだ・・・」
すると俺の中での何か吹っ切れる様な・・何かが切れる様な・・安堵にも似た気持ちが次第に浮かんできた・・・
愛しい恋人が目の前で死んでいる悲しみ・・・
もう二度と会話も出来ない、抱きしめあう事も出来ない・・悲しみ・・・
居た堪れなく、可哀そうで嘆きにもにた気持ちに包まれた・・・
俺のさっきまでの気持ちとは裏腹に結衣の元へと向かっていた
不思議と怖くも恐ろしくも感じなかった・・・
色白で綺麗な肌を見つめると一度しか会った事のない(精神世界)彼女が数年前から知っているような感覚になっていた・・・
「結衣・・結衣・・・守りきれなくてごめん・・・」
首のない結衣の体に縋りつくように抱き着いた・・・
『結衣-----------------!』
大声を出し、泣き崩れた・・・
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すると・・ぼんやりと体が薄れ始め・・足の方から消え始めた・・・
『あぁぁ・・・結衣・・結衣・・いなくなるな!ここにいてくれ---!』
下半身から上半身へ体が消え始め・・あの切り落とされた首まで進んだ・・・
『あぁぁ・・結衣・・俺を許してくれぇ・・・』
泣き崩れ、床にへたり込んだ・・・
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目の前にぼんやりと結衣の姿が映った・・・
『あぁぁ・・結衣・・結衣・・・』
『ありがとう・・京ちゃん・・結衣・・・これでもう何も思い残すことはない・・・大好き・・京ちゃん・・』
結衣は京介に抱き着き耳元でそう囁くと姿を消した・・・・
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ------------!』
どうしようもない悲しみ包まれ 俺を叫んだ・・・
次第に周りの景色は消え、扉があったはずの場所へと移っていた・・・
だが、そこにはもう「結衣の扉」は存在しなくただの白い壁と変わっていた・・・
京介はその壁を何度も何度も叩き壊して中に入ろうとした・・・
だが・・・そんな事を繰り返しているうちに、いつもの恐ろしいほどの眠気に襲われ倒れ込んだ・・・
自分の体が何処かに墜ちていくような吸い込まれていうような感覚だった・・・
そして・・・
意識が消えかける時に声が聞こえた・・・
『ありがとう・・・』
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つづく