手術までの日々は何ら変わりなく、本当に病気なのかと思うぐらい元気だった。
しかし現実は容赦なく過ぎていく。

まず主人の両親に報告し、義母は電話越しに泣いていた。奇妙なことに義母の妹さんも同じ病気で闘病中であり、34歳の若さで同じ病気になったことをとても悲しんでいた。娘のことを頼みますと改めてお願いをした。

そして職場への報告。外資系アパレルメーカーに勤めていて風通しの良い職場であった。仲の良い上司に乳癌であることを話し、休職という選択肢もあったが、治療に専念するため退職を選んだ。自分の口から真実を話す、これが決めていたことだった。中には折の合わない人もいたが、この話をすると突然泣き出し、誰よりも心配して励ましてくれた。こんな環境に入れて本当に幸せだと、皮肉にもその時痛感することとなる。

心許せる友達には全て公表した。隠さない。これから何があるかわからないため、周囲の協力を求めなければならない。今まで頼ることをとことん嫌がってきたが、この時だけは別だった。家族の人生がある。極論、人は自分一人なら誰にも迷惑をかけずにと思うのかもしれない。しかしそこに背負うものが守るものがあった時、自分だけの命ではなくなる。まだ小学2年生の娘がいる。人生を教えてあげなければならない。まだまだ伝えきれていないことがたくさんある。ありがたいことに周囲は協力的だった。頼ることの大切さを実感する。

美容室にも行った。ウィッグを作るためだ。以前美容師として働いていたお店だったため、顔見知りばかりで幸いなことにことは順調にすすんだ。閉店後の美容室へ出向き、カタログから何個か取り寄せてもらった。それを一つずつ試し、ああでもないこうでもないと大爆笑しながら決めた。この時だろうか、空気が重くないと感じたのは。みんなが前を向かせてくれた。結局某大手会社の8万円もするロングウィッグを購入した。人工毛と人毛がミックスされたものだ。これは母からのプレゼントだった。告知されたその日、娘がこのことで嫌な思いをするようなことがないように、せめて良いウィッグを買って自然体でいれるように努力も必要だと言われていた。間違ってはいない、ことの重大さにも気付かされた瞬間だった。

自分の準備は意外と順調だった。
あと一つを残しては。