用事があって電車で出掛ける時は、乗っている間に読む用にカバンの中に何か本を一冊入れて行っていたのですが、結局読まずに外の景色を眺めていることの方が多かったので最近は持って行くことも少なくなりました。代わりに、自宅のある駅に帰って来た時にお茶をしてホッと一息つき、文庫本を一冊買う、というのがここ最近のパターンになっています。この本も前回のお出掛けから帰って来た時に買った一冊。ちょっと疲れていたので気楽に読めるものを…と手に取りました。
その中の「3度目のピアノ教室」から。
作者は仕事で「アマデウス」というモーツァルトの生涯を描いた映画を見て、その中で流れていた美しいメロディに魅せられ、ピアノを習おう!
と思い立つのですが…。小学生の頃習いに行ったときはノートに音符ばかり書かされるのが退屈で続かず、大人になってから再度始めるのですが、先生に厳しく言われるのが嫌でまたまた挫折してしまいます。そして3度目の正直、今度こそ長続きさせたい……
  *      *      *
さすがに、じっくり考えてみた。まず、弾きたい曲を教えてもらうのがいい気がした。ピアノ初心者が習う簡単な曲ではなく、ズバリ、自分が「これだ!」という曲を徹底的に習うのだ。
何年かかってもいいから、モーツァルトの曲をひとつ弾けるようにする!目標があるほうが長つづきしそうである。それから、大人になってまで
「どうしてできないの」などと叱られるのは懲り懲りだから、うーんと優しい先生に習いたい。
これは絶対条件。とりあえず、チラシで見たピアノ教室に電話をしてみた。
「あのぅ、ピアノ習いたいんですけど、体験レッスン受けられますか?」
「はい、大丈夫です。ご希望の日時はございますか?」受付の女性に聞かれたので、わたしは思いきって言ってみた。
「日時はいつでもいいんですけど、わたし、先生に叱られたり、イライラされたりするの嫌いなんで、そちらの学校で一番のんびりしている先生に教わりたいんです」
こんなこと言って、なんと返されるのだろうか。
受話器を耳にドキドキしていると、
「ちょっと待ってくださいね〜、あ、では、こちらの先生が合うんじゃないかな〜」などと、先生をチョイスしてくれるではないか。言ってみるもんだなぁ。早速、指定された日に体験レッスンに行ったら、優しくて、のんびりしているいい感じの先生だった。というわけで、毎週、ピアノ教室に通う日々なのである。

これを読んで、作者の人、ほんわかした印象なのに中々はっきり言ったもんだな〜と思ったのですが。私も似たような経験があって…
健康診断でどうしても内視鏡検査を受けなければならなかった時、下手なお医者さんに当たって苦しい思いをするのはごめんだと思い、病院に電話を掛けて「内視鏡検査は初めてなのでベテランの、経験豊富な先生にお願いしたいです」と頼んでみたのです。そうしたら「そうですか、ちょっと待ってくださいね〜」と言ってリストの中から1人の先生を選んでくれました。そして当日、検査室のドアを開けるとそこには私の希望通りの「経験豊富なベテラン」といった佇まいの穏やかそうな先生が座っていたのでした…。