日に灼けた物干し竿はもろくも崩れ去り自分を守るために生成した黒い色素がターンオーバーを繰り返し繰り返し脳内もターンオーバーを繰り返し繰り返し20代の頃見ていた映画は忘れてしまって狂い咲き目にあてた細い細いカミソリの切っ先だけをわたしは鮮烈に覚えている。
細胞賛歌が止まらない白い壁紙と6畳の薄い罠、迷彩柄のチャックを締めればそこから先は魔術の谷、妖精たちはそこに転げ落ちてはやわらかい正常の聖女のふところに舞い落ちる。
本当の名前なんか知らなくてもいいよ、わたしは目を見ただけであなたがわかるし、ここに来たということはあなたはわたしと同じ何かを僅かでも持っているはずだから。知っている物事の濃度が高くなくても低くなくてもいい ただここに